アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。ビューティ専門チェーンのアルタビューティ(ULTA BEAUTY)は、いま米国で最も勢いのある小売店の一つだ。日本ではあまり知られていない年商1兆円超の小売企業について、基本から紹介する。
アルタビューティが四半期(2022年8〜10月)および通期(23年1月期)の決算を発表した。非常に好調な業績だったが、ビューティ専門店チェーンがここまで大きく伸びるのかと少々感慨深いものがあり、概要をここでざっとまとめておこう。
・売上高は102億858万ドル(約1兆3475億円)で前年比18.3%増
・営業利益高は16億3861万ドル(約2162億円)で前年比26.3%増
・最終利益高は12億4241万ドル(約1639億円)で前年比26.0%増
・既存店成長率は15.6%増
決算リリースでCEOが“創業以来33年をかけてはじめて年商が100億ドルを超え、最終利益高が10億ドルを超えた”と言っているのだが、アメリカではケタ数が1つ増える100億ドルと10億ドルはもちろん大きなマイルストーンとして評価される。
日本でいうならば1兆円と1000億円である。ビューティ専門チェーンとしてこの規模の企業が登場したことは特筆して良いだろう。日本ではブランド直営の専門店チェーンか、またはドラッグストアのようにカテゴリーとして持っているチェーンストアは存在するが、アルタのように小売り単独の大規模チェーンストアはまだ生まれていない。ポテンシャルのある分野だと思っている。
ちなみにアメリカではアルタに近いフォーマットとしてセフォラ(SEPHORA)が強く、両社は競合しているのだが、セフォラも好調のようだ。連結売上高23%増を記録した親会社のLVMHは、“セフォラによる記録的なパフォーマンスが全体を押し上げた”と言っている。2大チェーンといった様相を呈しているのだが、両社ともに絶好調なのである。
またアルタはマイルストーン超えとして年商と利益に加えて、メンバーシップ(名称はアルティメットリワード)の会員数が1年間に300万人増えて4000万人を突破したことを強調している。
店舗数は47店舗増えて1355店舗となった。売り場総面積は1420万スクエアフィート(約132万平方メートル)と記されているので、1店舗あたりの平均面積は1万500スクエアフィート(約975平方メートル)ということになる。この店舗面積はドラッグストアの標準面積とほぼ等しい。
ご近所商圏のアルタ、広域商圏のセフォラ
アルタとセフォラの立地戦略の違いは、前者がNSC(ネイバーフッドショッピングセンター、近隣型ショッピングセンター)やCSC(コミュニティーショッピングセンター、中商圏型ショッピングセンター)に出店するのに対して、後者がRSC(リージョナルショッピングセンター、広域型ショッピングセンター)内に出店する点にある。
NSCやCSCとはつまり、スーパーマーケットの隣や、ウォルマート(WALMART)やホームデポ(HOME DEPO)といったディスカウントストアが出店しているショッピングセンターである。アルタはもともと百貨店のビューティをドラッグストアのような環境で売ることをコンセプトとして創業した企業なので、セフォラに比べると消費者により近いところに立地している。
しかしセフォラはモール内だけだと限界があるためここ数年モール外に店を増やしはじめており、立地の違いで差別化してきた両社がとうとう正面からぶつかる状況となりつつある。
アルタの店舗数の中期目標は1500~1700店舗で、これに加えてディスカウントストアのターゲット(TARGET)店内で展開ししているインストアショップが800カ所としている(現時点でターゲット内に出店するインストアショップは350カ所)。その昔にアルタが1000店舗を目標にすると言っていた時期があって、ビューティ専門店チェーンが4ケタ出店を目標にするのかと驚いたものなのだが、軽々と超えてしまった。
CEOによると、4つの柱がアルタのビジネスモデルを支えていると説明している。「商品アソートメント」「店内サービスとイベント」「Eコマース」、そして「ターゲットとの提携」である。最初の3つは目新しいものではないのだが、ターゲット内のインストアショップが入っていることに注目したい。
ターゲットも好調さに言及しており、両社の提携は成功裏に進んでいると判断して良いようだ。
セフォラはモール外に出店し、アルタはディスカウントストア内に出店しと、両社ともに軌を一にして今までとは異なる立地の強化を開始しているのである。
ポスト・ドラッグストアとしてのビューティ専門店
高い売上高成長率の要因は、パンデミックで抑制されたビューティカテゴリーの回復基調が続いていること、値上げ(おそらくインフレ要因)、新商品、人と人が交流するソーシャル機会の増加、コロナ規制の撤廃、と説明されている。メーキャップ、ヘアケア、スキンケア、フレグランスといったすべての主要カテゴリーが2ケタ成長したことが影響した。
またスキンケアがもっとも伸びたのだが、ウェルネスとセルフケアに根ざしたトレンドだとしている。ビューティとウェルネスの関係とは、例えば色を重ねて見栄えを良くするという目的だけではなく、活力や健康につながるという視点である。
貢献度の大きかったブランドは、ドランク・エレファント(Drunk Elephant)、ジオーディナリー(The Ordinary)、ヒーロー・コスメティックス(Hero Cosmetics)、ラロッシュポゼ(La Roche-Posay)に代表される医療ベースのブランド、となっている。
Eコマースについては公開情報が少なく売上高比率や成長率は不明だが、強化していることは明らかである。「店舗でしか買わないお客が店舗とオンラインと双方で買い始めると、購買額が2.5倍増えて、さらに来店頻度は減らずに増えることが分かっている」とCEOがECの効果について語っている。
公開されているデータはフルフィルメント関連である。ネット通販による注文数の31%がインストアピックアップか店舗発宅配の店舗フルフィルメントで、21年の28%から3ポイント増えた。
フルフィルメントは、専用センターと、店舗フルフィルメントと、双方を使い分けることになるのだが、アメリカの小売業界は店舗フルフィルメントを強化する方向へと向かっている。店舗という資産を有効活用するためで、さらにインストアピックアップを強調することで来店を促す目的もある。
アメリカにおけるビューティ専門店チェーンの好調は、ビューティをカテゴリー展開している業態としての百貨店やドラッグストアが弱っていることも影響しているのだろう。ビューティを提供するチャネルが徐々にシフトしているのである。
この快進撃がどこまで続くのか、注目したい。