「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」2023-24年秋冬ショーの会場は、パリ南西部のポルト・ド・ベルサイユにあるドーム・ド・パリ。コンサートや演劇など用途によって配置を変えられるモジュール式のホールだ。舞台にはドラムセットが置かれ、その前には階段状の客席、背面には巨大な鏡が設置されている。
1月のメンズショーでもライブパフォーマンスを行ったジャズドラマーのランダー・ギスリンク(Lander Gyselinck)が登場し、凛と響き渡るベルの音から即興の演奏を始めると、ショーがスタート。客席の後列から登場したモデルたちは、数列ごとに設けられた小高くなった通路を右へ左へとゆっくり歩きながら、徐々に舞台へと下りていく。そして、舞台後ろの鏡には、その高低差を生かした壮大なショーの全貌が映る。目の前を通りすぎるモデルの姿を通して服をディテールまでしっかり見せながら、鏡と生演奏を通して空間に幻想的でエモーショナルな魔法をかける―――莫大な予算をかけた大掛かりなセットを使わずとも記憶に残るショーを数多く生み出してきた「ドリス ヴァン ノッテン」らしい演出は、ドリスが初期から一緒にショーを作り上げているエティエンヌ・ルッソ(Etienne Russo)率いるヴィラ・ユージニー(VILLA EUGENIE)によるものだ。
そんな今シーズンのテーマは“服への愛”。服と着る人の間に生まれる親密な関係や愛着心に目を向けた。中心となるのは、メンズスーツに用いられるようなピンストライプやヘリンボーン、無地のウール地と、透け感のあるオーガンジーやチュール、テクニカルメッシュなどの軽やかな素材のコントラストを効かせたテーラードやドレススタイル。ジャケットはオーバーサイズのボクシーからウエストを絞ったものまでをそろえ、ドレスやスカートは細身で縦長のシルエットを描く。
コレクションの随所に散りばめたのは、“長く大切にするもの”という服に対する考え方だ。ブランドを象徴する花柄は、年月を重ねたような褪せた色や風合いでプリント。ベルベットにはあえてエイジド加工を施し、シルクにも洗いをかける。レースは、歴史あるフランスの工房で伝統的な手法で製作。「アンティークのようでありながら、ほこりっぽくならないこと」を意識したという。
そして今季を象徴するのは、ゴールドの輝き。その表現は、箔プリントやブラシで塗ったかのようなペイントから、ジャカード、刺しゅうまで。着古した愛着のある服を修繕するかのように施された金糸のジグザグステッチやメタリックジャカードのパッチワークは、服を大切に思う気持ちにつながる。また、ライニングに繊細な花の刺しゅうをあしらったアウターは、まとう人だけが知りうる喜びを表したもの。それは、まさに服と着用者の親密な関係を示している。
コレクションノートの最後に書かれていたのは、「服がもつ本当の豊かさと、服が語る数々のストーリーにオマージュを捧げて」という言葉。服をこよなく愛するドリスが、純粋に服を愛する人たちのために作り上げた美しいコレクションは、ファッション・ウイークやショーの意味をあらためて考えさせられたシーズンにより一層輝きを放った。