ブルーボトルコーヒージャパンは、コーヒー数種のコースメニューを提供する新業態「ブルーボトル スタジオ(BLUE BOTTLE STUDIO以下、スタジオ)」の1号店を京都に3月31日オープンした。
「スタジオ」は、築100年を超える古民家をリノベーションした既存店「ブルーボトル 京都カフェ(以下、京都カフェ)」はなれ2階の一室。歴史を感じさせる漆喰と畳張りの空間で、カウンター越しに熟練のバリスタが1杯ずつ丁寧にドリップ&サーブする。世界中から厳選した豆を使い、独創的な方法で抽出したコーヒーやオリジナルドリンクを提供する。
コースはコーヒーチェリーの果実部分を使用したドリンクから始まり、希少なシングルオリジン豆3種の飲み比べ、ネルドリップの濃厚なコーヒー、カフェオレと続く。合間には一口サイズのスイーツを提供するが、役割はドリンクの味を引き立てたり、味覚をリセットしたりすること。あくまで主役はコーヒーだ。
コースは各回4席の予約制で、1人8250円。コーヒーの相場が1杯数百円であることを考えればかなり攻めた価格設定だが、5月初旬の大型連休まで予約はほぼ満枠という。
30日に行われた内覧会に合わせて、米ブルーボトルコーヒー創業者のジェームス・フリーマン(James Freeman)が来日。現在は経営から退いているものの、「スタジオ」を創業(2002年)から培ってきた思想や創造性を凝縮した場とすべく、メニューや空間の設計に全面的に携わった。彼のコーヒーに向き合う姿勢や探究心、「スタジオ」1号店の出店地に京都を選んだ理由を聞いた。
WWD:日本に対する印象は。
ジェームス・フリーマン「ブルーボトルコーヒー」創業者(以下、フリーマン):私は「ブルーボトルコーヒー」の故郷は日本にあると思っている。喫茶店という文化が大好きだ。15年前、日本で初めて喫茶店に入ったときの衝撃が忘れられない。渋谷の「茶亭 羽當(はとう)」という店だ。カウンター越しにマスターの職人技のようなドリップを眺めた。カップに注がれるのを待つ時間、カウンター越しの距離感は、まさに私の理想とするものだった。
WWD:「スタジオ」の1号店に京都を選んだ理由は。
フリーマン:「ブルーボトルコーヒー」は、はるか昔からあるコーヒーという文化を、どう現代にフィットする形で表現するかを考え続けてきた。グローバルでは100店舗以上を展開しているが、この「京都カフェ」はその考えを最も象徴的に表現している店舗の一つだからだ。100年以上前からある京町家をリノベーションすることで、過去のものを風化させずモダンに作り変えた。時を重ねた建築木材と漆喰の空間で過ごしていると、私自身も「ブルーボトルコーヒー」の哲学を反芻しているような感覚になる。
WWD:中庭があり、内と外が溶け合うような設計がユニークだ。
フリーマン:「ブルーボトルコーヒー」ではコーヒーだけでなく、空間も含めてお客さまに提供する価値だと考えている。ここでコーヒーを頼んで椅子に腰掛けると、さまざまな「音」が聞こえてくる。レコードプレーヤーから流れる音楽、木々の葉の擦れ合い。外では他のお客さまが中庭の砂利を踏みしめている。それらを聴きながら傾ける1杯は、とても奥深い味わいになる。
知識、経験を余すところなく表現
コーヒーを高尚にするつもりはない
WWD:日本人のコーヒー文化に対する理解は。
フリーマン:日本人は創作において、無駄を削ぎ落として素材のピュアな魅力を楽しむ。その技術やプロセスに対する尊敬もある。日本には現在24の店舗があるが、私が創業した時にはここまでスケールできることを想像していなかった。それができたのは「ブルーボトルコーヒー」が大切にしていることと、日本人の感性に重なる部分があったからかもしれない。
WWD:「スタジオ」で伝えたいこととは。
フリーマン:私がこの20年で培ってきた知識や体験を通じて、今考えうる最高のコーヒー体験を表現する。豆の繊細な個性を引き出すためのさまざまな方法をカウンター越しにお見せする。日本人の皆さんなら、きっとその時間を楽しんでいただけると思う。例えば京都でうなぎ屋さんに入って、漂ってくるいい匂いを感じながら、ゆっくり待っているときのようにね。「スタジオ」は京都を足がかりに他の地域、国にも広げていくことを考えている。ただもしアメリカで同じことをやろうものなら、「まだか?早く飲ませてくれ」と舌打ちされてしまうかもしれないね(笑)。
WWD:レストランでコース料理も食べられるような価格設定だ。
フリーマン:僕はこのコースの価格決定のプロセスには関わっていないんだ。価格を高くすることで、コーヒーを高尚なものにしようという意図はない。私がこれまで培ってきた知識や経験をすべて注ぎ込んで、それをお客さまに余すことなく伝えられるにはどうしたらいいか?しか考えることはなかった。(価格は)もちろん決して安くはないけれど、ここでの体験を通じてそれだけの価値を感じていただけると思っている。「こんな味わいがあるんだ」「抽出の仕方でこんなに変わるんだ」というふうに、皆さんのコーヒーの新しい扉を開くことになればうれしい。