ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。小島氏は3月にロサンゼルスを視察した。アパレルを含めた流通革新の多くは米国で生まれるといって過言ではない。パンデミックを経て、米国のアパレルマーケットはどのように変化したのか。
コロナ明けのリベンジ消費も一巡し、インフレと利上げに挟まれて消費の減速が目立ち始めた米国のファッション市場だが、どんな変化が進行しているのだろうか。久方ぶりに訪れたLA(ロサンゼルス)の印象をお伝えしたい。
インフレバブルとローカルチェーンの没落
FRBが金融不安リスクを冒しても押さえ込みたいインフレバブルが収まらない中、フードサービスやブランドビジネスでは「値上げしたもの勝ち」の様相を呈して法外価格が横行しているが(フードサービスの価格感覚は日本の4〜5倍)、それについていけるのは高所得層や富裕層だけであって、大部分の中下層は生活苦にあえいでいるのが米国の現実だ。メトロポリスとカントリーで格差があるがメトロポリスでは年収10万ドルでも苦しく、中低所得層では家賃負担が手取りの過半を超えてホームレスに陥る人が少なくない。LAでは廃車同然のトレーラーハウスの不法駐車が目立つが、これが車社会のホームレスなのだそうだ。
サウスコーストプラザやビバリーセンターなどハイクラスのリージョナルモールではラグジュアリーブランドやベタープライスブランドがファッションテナントの過半を占め、対極のグローバルSPA御三家(「ザラ」「H&M」「ユニクロ」)に挟まれてローカル(米国)のアパレルチェーンが半減しており、かつての常連チェーンは家賃の安いカントリーのモールやタウンセンターに逃げ出している。
コロナ禍を経てモールに代わる衣料購入の主舞台となったのがオープンスタイル&ダイレクトパーキングのタウンセンターやストリップモールで、DS(ディスカウントストア)のターゲットやウォルマート、大衆デパートのコールズ(お手頃NBぞろえのデカいしまむらと思えばよい)を核に「TJマックス」や「ロス」、「ノードストロム・ラック」や「サックスオフフィフス」などオフプライスストアがそろう。
モールのローカルチェーンがインフレに押されて割高になる一方(だから顧客が離れて業績が低迷、あるいは頭打ち)、ターゲットやウォルマートは調達地域をシフトして低価格をキープしており、ブランドメーカーとのタイアップ調達が進むオフプライスストアとともに大衆(概ね年収12万ドル以下)の衣料消費に応えている。
インフレバブルが受け入れられて高額化が進むラグジュアリーブランドと手頃なオフプライスストアやディスカウントストアの衣料品、グローバルSPA御三家に挟まれ、米国のアパレルチェーンは行き場を失っている。全米展開のアパレルチェーンでも、メトロポリスのモールからカントリーのモールやタウンセンターに主戦場を移すケースが目立ち、ジーンズセレクトショップの「バックル」のようにLAメトロポリスから消えたチェーンもある。
過剰資金供給でインフレバブルが定着した米国社会はまさにH・G・ウェルズがSF小説「タイムマシン」で描いたような資本家(資本所得者)と労働者(知識階級も含めた労働所得者)の両極社会に陥っており、大多数の米国市民は権威主義国家の人民より幸せとはもはや言い難くなってきた。
ライフスタイルブランドが成功条件
モールのアパレルチェーンで勢いがあるのがヨギーライフスタイルの「ルルレモン」で、2023年1月期は81店増えて655店(米国内は26店増の350店)になり、売り上げは29.6%(米国内は30.1%)、既存店も16%増えた。直営店は29.3%伸びて45.0%、D2C(オンライン)は33.2%伸びて45.6%、他(アンバサダーへの卸売り上げなど)は16.0%伸びて9.4%を占めた。売り上げは前々期から84.3%(米国内は82.1%)も増加したが、MIRROR(スタンドミラー型オンライン対面エクササイズシステム)の買収に関わる減損で営業利益は前期から0.4%、純利益も12.4%減少している。
「ルルレモン」と似たようなスウェット軸のライフスタイルブランドも広がっており、「VIORI」はノードストロムにも展開している。スエット軸ライフスタイルブランドが広がる一方、苦戦が目立つのがデニム軸のワークカジュアルだ。
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