ファッション
連載 私が新入社員だったころ

ユニクロで50人のプロジェクトを束ねるMDが語る、若手時代に磨いたリーダーシップ【私が新入社員だったころ vol.1】

 「WWDJAPAN」は4月3日号で、ファッション&ビューティ業界の新入社員や若手社員に向けて、「プロになろうーー知っておくべき業界の今」と題した特集を企画した。それと連動し「WWDJAPAN.com」では、業界で活躍するアラフォー世代以下のリーダーたちに、自身が若手だったころに心掛けていたことや、それが今の仕事にどうつながっているかを取材。連載第1回は、ユニクロ「UT」の氏家慶多MDチーム リーダーに話を聞いた。新入社員や若手社員の皆さんは、先輩の言葉の中にぜひ働き方のヒントを見つけてほしい。

WWD:就職先にユニクロを選んだのはどんな理由からか。

氏家慶多ユニクログローバル商品本部UT事業推進部UTコラボレーションMD・商品計画チームリーダー(以下、氏家):一番大きかったのは、若くして活躍できる環境があるということと、グローバルな企業であること。日本にはそういった企業が実はそんなに多くないと思う。就活で会社説明会に何社か参加したが、ユニクロの担当者が自分たちは本気で世界一を目指しているんだと語る姿はインパクトが強かったし、非常に共感した。また、私が学生時代を過ごしたのは1990〜2000年代で、アメカジや裏原カルチャーの全盛期。服自体もともと好きだったことも入社理由だ。

WWD:衣料品店でのアルバイト経験などはなく、配属先の山梨・富士吉田店で初めて服を売ることになった。

氏家:配属辞令が出る日の朝、家から当時蒲田にあった本社に向かう際に、電車の中から富士山がとてもきれいに見えたのを覚えている。それで配属先が富士吉田。運命的なものを感じた(笑)。富士吉田店には当時50人前後のスタッフがいて、売上高は年間5〜6億円。この店舗で長く働いているスタッフもたくさんいる中で、経営幹部として入社して、いきなり店長の代行者を任せられる重責を感じたが、店のメンバーとどうやったら商品の魅力が最大限にお客さまに伝わるかを考えることはすごく楽しかった。毎週月曜に商品が入荷すると、皆で「これはどういう人に売れる商品か」「どんな風に売るといいか」といったことを考える。もちろん本部からの指示もあるが、富士吉田は観光客が多くカジュアルアイテムが好まれ、地元住民は比較的年配者が多い。そういった店舗特性に合わせて商品の見せ方をアレンジしていくのは面白かったし、売り上げにもつながった。売り上げはお客さまから評価されたことの証だ。すごくいい経験になった。

WWD:吉祥寺の店舗を経て、24歳で店長職に就いた。数字に責任を持ち、スタッフのマネジメントも行う店長は1つの商店の社長にもよくたとえられる。どんな苦労があり、それをどう乗り越えたか。

氏家:売り上げ、利益といった会社が掲げる大命題があり、それを店舗に今いるメンバー、有限な時間の中で構築していくことには難しさもあった。トライ&エラーしながら、店舗の組織を変えたり、人員配置を変えたり。異動して何店舗か経験する中で、店舗のある地域によって、働いている人の気質も異なるということにも気付いた。そのような(さまざまな変数がある)中で、売り上げや利益目標を達成するチームをいかに作るかという点ではその時々に苦労があった。

 店舗や地域のことを何も知らない人間が突然店長として現れて、本部からの指示そのままの言葉で目標を語っても店のメンバーには響かない。会社の考えは理解しつつも、それに対して自分はどう思うか、どうしたいかという自分の言葉でみんなに伝えないと、頭でっかちなだけで全然伝わらない。実際、そういうことは何度もあった。自分よりもベテランのスタッフも多い中で、彼らの経験をリスペクトしつつそこから自分は何を学ぶか、彼らの働き方をさらに引き上げていくような動機付けをいかに行うかといった点などは、仕事をしながら身につけていった。仕事だけではないコミュニケーションの部分も大切だ。自分自身をさらけ出して知ってもらって、相手が自分に対してどう思っているかを受け入れながら人間関係を築いていく。結果的に、それがいい組織やチームを作ることに一番つながったと思う。こうした経験はどんな組織、職場でも大切だろうが、それを若くして身に付けられる環境にあるというのがユニクロの特徴だと感じる。

WWD:数店舗で店長を務めた後、スーパーバイザー(エリアマネジャーを指す)を経て入社7年目に本部に異動。メンズ担当のMDになった。本部への異動はどんな経緯だったのか。

氏家:ずっとMDになりたいとは思っていたので、それは面談などで伝えていた。しかし、ユニクロの場合は現場を知らないと仕事がうまくいかない。だから、自分のけじめとしてスーパーバイザーまでは現場でしっかりやり切ると決めていた。それでスーパーバイザーを丸1年やって、そろそろMDにチャレンジしたいと思っていたときに、偶然本部から声が掛かって異動することになった。(異動に限らず)なりたい自分を第三者に発信しておくことは大切だと思う。秘めていても分からないので意志は伝えていくべきだ。

 MDという職種は知っていても、何をしているか実態が分からないという人も多いだろう。商品をどう売っていくかを考えるという点で、本質的にはMDの仕事も店頭の販売と同じ。ただ、MDはそもそもどんな商品を作るか、どれだけ作るかといったより川上の段階から取り組むことになる。MDは何でも屋で、商売の根幹を作りながら、最後の1点を売り切ることにまで責任を持つのが仕事。MDの部門内だけで仕事が完結することはほとんどない。マーケティング担当、生産担当、デザイナー、商品が売れ残ったときには店頭といったように、さまざまな部門と連携を取って、商品を企画・発信し、売り切っていく。(グローバルな働き方が必然となっていく中で)米国や中国の担当者とやり取りをする機会も多くなっている。

意志を表明することで、仲間が集まる

WWD:今はグラフィックTシャツ「UT」のMDを担っている。さまざまなコンテンツとの話題のコラボレーションも多いが、ヒットの芽はどのように見つけるのか。

氏家:「UT」はあらゆる人にとっての、カルチャーを知るきっかけになることを目指しているブランド。たとえば、幼いころにキース・ヘリング(Keith Haring)の「UT」をそれとは知らずに着ていた人が、大人になってアートに興味を持ってくれたら嬉しい。そういう意図で運営しているので、単に話題のコンテンツとコラボして売り上げを取っておけばいいというものではない。若いころから意識的にいろんなところにアンテナを張るようにしていたことは、今の仕事に生きていると思う。(若手業界人へのメッセージとしては)家電でも美容でも映画でも漫画でもジャンルは何でもいいから、興味があることはより深く知る努力をしてほしい。興味がないと思っていたことも、触れてみたら景色が変わることもある。アンテナを広く張って興味関心を広げることは必ず将来の糧になる。私自身も富士吉田にいたころに、休日にすることがなくて映画を観たり、本を読んだりしていたことが、「UT」担当になって生きている。

WWD:MDとして米国赴任も経験した。異文化を背景に持つ米国のメンバーと仕事をするのは、日本で店長としてスタッフをまとめていくこと以上にカルチャーギャップがありそうだ。

氏家:まだ米国の店舗数が今のように多くなかったころ、1年間赴任した。日本と米国のスタッフが一緒に働いていくための仕組み構築のために、教育の意味合いも兼ねて日本から10人ほどのチームで行ったが、MDはここでも何でも屋。気づいたことは何でもやるスタンスだった。当時、米国は部門ごとの縦割りで仕事をしている印象が強かったので、情報を連携して、どう組織に横ぐしを刺していくかを意識して動き回った。日本でできている当たり前を、米国でも当たり前にするための土台作りだ。現地のスタッフは、日本企業で働いているだけあって日本文化に明るいし、オープンマインドで日本のことを好きでいてくれている人が多い。自分の英語力には問題もあったが、ボキャブラリーは一旦置いておいて、端的な単語で伝えるとか、分からない表現はその都度調べるというのを繰り返して、積極的にコミュニケーションを取るようにしていた。

WWD:22年からは「平和を願うチャリティーTシャツプロジェクト」である「ピース・フォー・オール(PEACE FOR ALL)」のプロジェクト推進役を担っている。建築家の安藤忠雄や映画監督のヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)なども参加し、社内では部門を超えて50〜60人が関わるプロジェクトだと聞く。プロジェクトをまとめていくため心掛けていることは何か。

氏家:「ピース・フォー・オール」は、柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)から22年3月に立ち上げの話が出た。その時点で「5月の連休にはもう店頭で売りたい」というスピード感だった。そのためにはどのような相手(著名人やデザイナーなど)と取り組むべきか、彼らの平和への願いをどうTシャツのデザインに落とし込むか、グローバルで同時に発売するためにはどのような手順が必要か、短期で生産するためにモノ作りではどんな準備をするかなど、決めなければならないことは山のようにあった。部門を超えて50〜60人が参加するプロジェクトとなり、今でも週に2回、議題ごとのミーティングをそれぞれの担当者で行っている。私の仕事はミーティングを進行し、分野ごとにタスクや期限を決め、全体の共通課題としてまとめ上げていくこと。これまで社内でさまざまな仕事やプロジェクトに関わってきたが、これだけ短期間に多くの人が1つの目的に向かって、各所でつながりながら同時に動けた経験はなかったように思う。

 どんなミーティングもプロジェクトも、“フワッ”としたところからは始まらない。自分の意志を持って、「自分はこう思っていてああしたいから、あなたにはこれをしてほしい」と伝えることで、賛同してくれる仲間やアイデアが集まってくる。チームや組織をリードしていくためには、自分の考えをまず発信することが大切だと思う。同時に、自分の意見ばかりを押しつけるのではなく、いろんな意見やアイデアが出てくるような環境を作ること。意見をミックスして、皆でより良いものを作り上げることが重要だ。ここには、店長や店長の代行だった時代に、チーム作りのために店舗で試行錯誤した経験がかなり生きている。

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