ファッション

「ヒールクリーク」が新風を巻き起こす ゴルフとファッションを融合させたパイオニア

 「ヒールクリーク(Heal Creek)」は、ゴルフアパレルメーカー、グリップインターナショナルから2002年にデビューした。当時はまだ、スポーツであるゴルフとファッションが乖離していた時代。そんな中で、立ち上げ時から阪急うめだ本店、それから間もなくして伊勢丹新宿本店、ジェイアール名古屋タカシマヤといったファッション感度の高い百貨店に、トレンド提案型のゴルフウエアブランドとして売り場を構えた。ゴルフウエアにファッション的なトレンドを取り入れて提案するという戦略がすぐにヒット。ゴルフウエアのファッション化が定着した昨今、さらにその存在感を高めている。

ゴルフブランドにはない
新しいゴルフウエア

 ブランド名は、“癒やす=Heal”と“入り江=Creek ”を合わせたもので、“癒やしの地”を意味する。「ファッションを追求しながら、ゴルフシーンを思いきり楽しめるブランドとして、現代人の望みを満たす癒やしの地でありたい」という思いから名付けられた。“Play Elegant.” をコンセプトに、スポーツとエレガンス、シックとカジュアル、ベーシックとトレンドなど、対局する価値を兼ね備えたゴルフウエアを提案。それは、ゴルフとファッションが乖離していたブランドデビュー当時、ゴルフウエアと、その対局にあったファッショントレンドを融合させたことに端を発する。時代に合わせて変化する“ニューオーセンティック”を掲げて、人種も世代も超えた、世界に通用するエレガンスなゴルフウエアを追求している。

 グリップインターナショナルの桑田隆晴社長は、ブランド立ち上げ当時を振り返り「デザイナーには、ゴルフ売り場を絶対に見に行かないでと口酸っぱく言っていた。ゴルフウエアだから動きやすいことや機能面の充実は大前提としながらも、“UVカット”や“吸水速乾”のような機能タグは一切付けない。そして、商品を売る場所にもこだわり、1店舗目は阪急うめだ本店へ出店した。当時、ファッションを追求していたゴルフブランドはうちだけ。店内も他のゴルフブランドのような移動式のカセット什器ではなく、専用什器を選んで作り込んだ。その分、投資も大きくなったが、当時のゴルフマーケットには、“エレガンス”が決定的に欠けていた」と語る。エレガンスにこだわったゴルフウエアは、百貨店のハイエンドな客層に見事に刺さり、すぐに軌道に乗った。それ以降、コンセプトやターゲットは一貫しつつも、マイナーチェンジを繰り返しながら、常に百貨店フロアの売り上げ上位に食い込むブランドへと成長した。ブランドは「安定期に入った」という。

時代を移ろうゴルフ市場
変わらない価値とは?

 「そもそもゴルフウエア市場は、この20年間1000億円前後を行き来しており、ほぼ変わっていない」と桑田社長。コロナ禍でゴルフがトレンド化し、さまざまなファッションブランドがゴルフウエア市場に参入してきた2022年でさえ、1059億円(矢野経済研究所調べ)といわれているのだ。ただし、ファッションブランドのゴルフウエア市場参入で、以前に比べてスタイルが多様化し、カジュアル化したのも確か。「小さなトレンドはこれまでも少なからずあった。例えばモノクロがはやっているとなれば、モノクロのゴルフウエアが増える。だが、トレンドが増えるとボリュームに変わる。そのときに周りと差別化するのは、洗練された“エレガンス”」。

 昨今はドレスコードがないゴルフ場が増えてきた一方で、カジュアルを受け付けないゴルフ場もたくさんある。「エレガンスの定義は時代によっても場所によっても変わる。私の若い頃に、デニムやスニーカーはエレガンスではなかったが、今は違う。エレガンスとは、“人に不快感を与えない”ことだと思う。ゴルフ場のクラスによって、身につけるものが変わるのは当然だ。プライベートの趣味の時間であるのだから、天気によっても気分によっても着たいものは変わるだろう。だが結果的に『上品だね』『素敵だね』と言われるようなルックスに仕上げたい。それが、立ち上げ以来変わらないブランドのコンセプトだ」。ゴルフウエアが多様化するほど、「ヒールクリーク」の時代が来るだろう。

六本木ヒルズに旗艦店
フルラインをそろえる

 「ヒールクリーク」はこのほど、六本木ヒルズに旗艦店をオープンした。売り場面積は90 ㎡で、メンズ、ウィメンズのフルラインをそろえる。陳列や什器は、ファッションブランドの売り場でも使われるもの。例えば、一般的なスポーツ店の場合、頭のあるマネキンを使用することが多いが、「ヒールクリーク」では頭の部分がないタイプのトルソーを使用。あくまでエレガントに、ブランドの世界観を演出する。

素材感、シルエット……
大人の着心地にハマる

 2023年春夏コレクションのテーマは、“UPGRADED HERITAGE”だ。伝統的な柄などの時代や流行に
左右されない普遍的なデザインを、機能素材やシルエットなどで新しくアップデートした。江口理チーフデザイナーは、「全てのアイテムに共通する特徴は、着ると気持ちよくて“癒やされる”こと。例えば、“ディンブルドッド”と名付けた素材は、ゴルフボールのような凹凸が特徴で、ヌルッとした質感の肌触りがクセになる」と説明する。素材感をはじめ、襟の高さやシルエットなどにハマるリピーターも多いという。

 店内には、ベーシックアイテムと挑戦的なアイテムの2軸を並べる。武田里花デザイナーは「今シーズンはアシンメトリーに挑戦した。襟元に斜めにボタンが入るとそれだけで敬遠されることもあるが、足の低いボタンや空き具合などでそれを補っている。ファッションと機能の両面でバランスを取る」。この果敢なチャレンジを続けることで、「ヒールクリーク」の次世代のベーシックを目指す。

TEXT:YUKI KOIKE
問い合わせ先
グリップインターナショナル
03-6408-8686