ファッション業界での販売員不足は今に始まったことではないが、今年に入り新型コロナウイルス感染症の緩和政策がとられるようになってから、それが顕著に出てきている。そこで注目されているのが“フリーランス販売員”の存在だ。企業やブランドに属さず、接客スキルを武器にさまざまな商材を販売している二人のフリーランス販売員に話を聞いた。
仕事は好きだけど自分の時間も大切
そんな思いを実現する働き方
ファッションが好きで、学生時代からアルバイトで販売員をしてきた鈴木咲沙さんは、大学卒業後に働き始めた大手アパレルメーカーの人気ブランドの店頭に7年間務めた。駅ビル内にある店舗は来店数も多く、営業時間も長く、棚卸やセール時期になると多忙を極める。
「販売の仕事は大好きなのですが、日々接客だけでなく業務にも追われて、次第に『この仕事、続けられるかな?』と思うようになりました」。
仕事も大切だけど、自分の時間大切にしたいという思いが募り、勤務時間が決まっている事務職に憧れることも……。その後、結婚を機に大手アパレルを退職し、通販会社で事務のパートを始めた。
いざファッション業界を離れてみると、服を買わなくなり、オシャレに無頓着になり、毎日同じ服を着ている自分に違和感。生活リズムは整ったけど、物足りなさを感じた鈴木さんは、友人に聞いた「メッシュウェル(MESHWell)」のことを思い出した。
「友人と『自分で働く時間、場所、報酬を決めて、好きな販売の仕事ができるって画期的だね』と当時話していたのを思い出し、すぐに検索しました。相談会に申し込み、即登録しました」。
最初は週1~2回、1回3~4時間の業務で、平日の事務職とダブルワークでスタート。登録後すぐにストアとマッチングが成立。販売員時代の勘を少しずつ取り戻しながら、徐々に業務できる時間を増やしていき、現在は1日に2回、各3~4時間の業務をベースに、思い描いていた“自分の時間も大切にしながら好きな仕事をする”というスタイルを確立した。
夢を叶えるために経験や知識も積める
フリーランスで働くという選択
「メッシュウェル」がサービスを開始した頃に登録した原田紗季子さんは、現在最もマッチング数が多いタレント(「メッシュウェル」での販売員の呼称)の一人。自分の店をつくるという目標に向けて、フリーランス販売員として働いている。
「アパレル業界の先輩から『メッシュウェル』を紹介されて登録してみました。当時はいろんなストアで働いてみたい、経験を積みたいと思っていたので、これを通じて働ければと考えていました」。
その後、都内の高感度セレクトショップで社員として働ける機会を得て、約2年間その店で勤務し、21年5月から再び「メッシュウェル」を利用してフリーランス販売員として働き始めた。
「利用していなかった2年間で、『メッシュウェル』は勤務できるストアが格段に増えていました。21年ごろはストアのほか、ポップアップからのオファーもあり、経験値を増やすのにはとても良い環境になったと感じました。ただ、それもストア側からのオファーありきです。オファーいただいた店でしっかり接客することはもちろんですが、『メッシュウェル』側もオファーしてもらうためのサポートやアドバイスをいただけるので、安心して働けます」。
現在は最長で連続業務できる6時間と2~3時間の短時間業務を組み合わせて勤務。特にストア側の人手が薄くなる午後~夜の時間帯、土日祝日、ストアや施設のイベント開催期間中などに業務することが多い。また、ポップアップの場合は開催時期と場所が決まると、「メッシュウェル」を通じて前もってオファーが入るという。ポップアップの場合は、アパレル以外に、水着やジュエリー、コスメなど、いろんなものを販売する機会もある。
フリーランス販売員として働く
メリット・デメリットは?
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販売員と店舗をつなぐアパレル業界のマッチングサービス「メッシュウェル」は、働く時間、エリア、報酬を自分で決めることができることが最大の特徴。利用し始めた頃の鈴木さんのように事務職とのダブルワークで働くこともできれば、原田さんのように夢に向かい集中して働くこともできる。もちろん子育て中のママ・主婦も家事や子育てのスキマ時間に働くことも可能だ。鈴木さんと原田さんに聞くと「自分の裁量で働けるのでメリットしかない!」と口をそろえて言う。
反対にデメリットについてたずねると「店舗によってルールや決まり事などがあり、それを覚えるまで柔軟な対応力が必要であること」(鈴木さん)、「常にストアからオファーをいただけるよう常に自分自身でスキルアップすることが必要」(原田さん)と教えてくれた。
だが最も大変なことは、税金や保険など、お金の管理面だ。フリーランスの場合、毎年、自分で確定申告をしなくてはならない。「メッシュウェル」では所属するシェアリングエコノミー協会と無料セミナーを共催したり、ヘルプページに確定申告の特設ページを開設するなど、フリーランスで働くタレントのサポートをしている。
販売員も新しい働き方を実現する時代へ
「メッシュウェル」は2019年2月にサービスをローンチして以降、現在はタレントのサービス登録数は約5500人、総マッチング数は約1万5000回、タレントの平均報酬額は1時間2686円に達している。サービス提供エリアも関東エリアをメインに、関西エリア、名古屋、福岡までに拡大している。最近では、関東在住のタレントが「帰省の合間に帰省先で業務はできないか」と、エリアを超えて働きたい意欲的な販売員も出てきている。
企業に属している一般的な販売員とは違い、「メッシュウェル」を通じて働くフリーランス販売員は“レジ会計”“在庫管理”“店舗ブログの協力”のような、金銭授受や店づくりに直結する業務は行わない。あくまでも“販売のスペシャリスト”として、接客業務だけに特化して働けることも「メッシュウェル」の特徴となっている。
2020年の新型コロナウイルスまん延をきっかけに、多くの販売員がこれからの働き方を模索するようになり、実際にキャリア10年前後の30~40代の販売員が現場を離れたと聞く。販売職は経験がものをいう仕事だから、企業にとってもこの世代がいなくなるのは痛手だ。
一方、離職した元販売員もこの仕事が嫌いになったり、ファッション業界が嫌いになったりしたわけではなく、鈴木さんや原田さんのように“自分らしい働き方”をするために離れた人も多いと耳にする。サービスを浸透していくことで、業界全体へ販売員の働き方がアップデートされていくことに期待したい。
PHOTOS : SHUHEI SHINE