LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)が2015年に設立したLVMH メティエダールは、岡山県のデニム生地メーカーのクロキとのパートナーシップ締結を発表した。22年に日本における活動拠点として設立したLVMH メティエダール シャパンが主導した、初の日本企業とのパートナーシップになる。パートナーシップの締結発表に際して来日したマッテオ・デ・ローサ(Matteo de Rosa)LVMH メティエダール最高経営責任者にクロキとのパートナーシップの締結から、世界中の工房や職人たちが抱える問題、そして、こうした問題を克服して10年先も“現実味のある存在”で居続けるために必要なことなどを聞いた。
WWDJAPAN:改めてLVMH メティエダール設立の理由は?
マッテオ・デ・ローサLVMH メティエダール最高経営責任者(以下、マッテオCEO):LVMH メティエダールは、ラグジュアリー・ブランドに欠かせない素材や技術を安定的に確保するために誕生した。今は牧畜、皮革とエキゾチックレザー、金属加工、繊維や生地の生産などの分野でネットワークを形成している。たとえば皮革ではフランスやイタリア、スペインに拠点を構えて、材料の供給源となる牧畜から、なめしや仕上げに至るまで、パートナー企業と提携し、「ベスト・オブ・ベスト」なカーフやラムスキンの安定供給を図っている。
WWDJAPAN:「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「ディオール(DIOR)」などのトップブランドを抱えているラグジュアリー・コングロマリットのLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)なら、LVMH メティエダールという会社を設立しなくても、「ベスト・オブ・ベスト」な素材や技術は確保できるのでは?
マッテオCEO:「ベスト・オブ・ベスト」を、ある程度のボリュームで、安定的に確保することは年々難しくなっている。LVMHの事業は成長を続けているから、「ベスト・オブ・ベスト」な素材は、これまで以上に必要になっている。加えて、昨今は職人も意識しなければならない問題があまりに多い。地球環境への負荷を軽減した皮革作りや、倫理的なエキゾチックレザーの調達などは、小さな素材メーカーや工房単体では成し遂げられない大きな問題だ。こうした諸問題に対して、世界中に市場と拠点、そしてスタッフが点在しているLVMH傘下のLVMH メティエダールが貢献できることはたくさんあるだろう。
それぞれのブランドではなく、LVMHというコングロマリットで職人に向き合うのは、彼らが10年後もレレバント(relevant)、その時の社会にとって現実味のあるモノづくり集団であることをサポートするためだ。世の中は不確実性が増し、未来を見据えるトップデザイナーを抱えていたり、時流に即したマーケティングに長けたチームが存在したりの私たちでさえ10年後はもちろん、3年後、3シーズン先の未来を見通すことは難しい。伝統に則り、目の前のモノづくりに集中する職人たちや、彼らが生み出す素材や技術が10年先もその時の社会にとって現実味のあるものであり続けるためには、幅広い視点を持つパートナーの存在が重要になるだろう。そんなときにラグジュアリー・コングロマリットのLVMHは、彼らにとって大事なパートナーになり得る。傘下のさまざまなブランドは異なるファンに支えられ、各国でも同様にさまざまな消費者を抱えている。10年後も現実味のある存在であり続けるための、さまざまな人たちの、さまざまな思考や志向を把握し、職人たちに注入できるからだ。生まれる素材や技術についても、「これは、あのブランドに使えるかもしれない」や「このブランドが興味を持っている」など、さまざまなブランドが、さまざまな形で応用できる可能性を秘めている。そのためには傘下のブランドがそれぞれ工房や職人とつながるだけでなく、LVMHというコングロマリットとしてクラフツマンシップの集合体を形成することに意味がある。
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