世界有数の素材見本市の一つである「プルミエール・ヴィジョン(PREMIERE VISION以下、PV)」が岐路を迎えている。PVは長い間、パリの10数万㎡の広大な見本市会場で、年2回ファッションウィーク期間の前後にパリで開催され、世界中から5万人以上のバイヤーを集めてきた。だが、コロナ禍で来場者が激減。危機感をにじませるPVは2023年7月展から、大掛かりな改革に着手する。サステナビリティーを掲げ、資材などをリサイクル素材に切り替えるほか、1年後の7月展からは主力のテキスタイル部門で、これまでテイスト別に配置していた出展者ブースを、「欧州企業」「非欧州企業」でホール自体を分ける。改革の狙いを、同見本市を運営するプルミエール・ヴィジョン社のジル・ラスボルド(Gilles Lasbordes)ジェネラル・マネージャーに聞いた。
WWD:現状をどう見る?
ジル・ラスボルド(以下、ラスボルド):前回2023年2月展は、3万5500人の業界のプロが訪れた。1年前の22年2月展と比べると62%増、半年前の22年7月展と比べると48%増だった。コロナ禍の収束に伴い、来場者は戻りつつある。
WWD:コロナ前には5万人以上が訪れていたことを考えると、本回復には至っていない。その理由は?
ラスボルド:いくつもの要因が複雑に重なっているが、その一つは企業側が一旦減らした出張費を戻していないことがありそうだ。観光に比べ、ビジネストリップはまだコロナ前に戻っていない。国や地域によってもばらつきがある。遠い地域だから回復していないというわけでもなく、例えば日本はまだ戻っていないが、韓国は復活している。
ただ、我々としては非常に危機感を持っている。今年の7月展の改革にあたってはバイヤーに大規模なアンケートも実施した。その結果は1.より効率化を求める 2.仕事のパフォーマンスに対するプレッシャー増 3.より計画的に 4.よりフォーラム重視 5.調達の優先順位の変化だった。
WWD:来年の7月展から、テキスタイルは「欧州」と「非欧洲」でホールを分ける。出展者数の多い日本やトルコを筆頭にアジアの企業から反発がありそうだが。
ラスボルド:出展者の配置・場所というのは、見本市の運営者にとって永遠の悩みであり、課題だ。ただ、今回の改変は、バイヤーへのアンケートに沿ったものであり、バイヤーのニーズに沿ったものだ。環境が激変し、改めて見本市の存在意義を見直す中で、我々の本質的な意義は、何よりもバイヤー、つまり来場者の使いやすさを常に高めていくこと。バイヤーはコロナ前に比べて、より早く、より効率的に会場を回りたいというニーズが強くなっている。その結果の一つが、「地域ごとに出展者を分類してほしい」というものだった。他の産業分野の見本市を見ても、グローバルなトレンドとして地域別・サプライチェーン別に配置するようになっている。出展者側には1年をかけて丁寧に説明していく。
WWD:サステナビリティへの対応は?
ラスボルド:見本市の運営会社としても、資材をリサイクル前提、あるいはリサイクル素材を使ったり、省エネに配慮した照明に変えたり、廃棄物の大幅な削減に取り組む。出展者やバイヤーに関しても、PV独自の基準を設け、来場者にわかりやすいツールなどを提供する。
WWD:デジタル化については?
ラスボルド:デジタルか、フィジカルか、という問題は我々にとって見れば古くて新しい問題ではあるが、我々の中ではすでにほぼ答えが出ている。素材見本市を運営する立場からすると、デジタルと比べると「生で見る・触る・感じる」のは圧倒的に情報量が多く、デジタルはあくまで補完的なものになるだろう。
WWD:どのくらいでコロナ前の水準に戻るのか?
ラスボルド:先のことは分からないし、特にいまは言うべきではない。ただ、21年9月に再開以降、回を重ねるごとに来場者の客足の回復スピードは増している。先ほども述べたようにデジタルはあくまで補完的な存在であり、リアルの方がバイヤーにとっては得られる情報量が圧倒的に多い。改革はもちろん今後も必要だが、本質的な部分で見本市の存在意義は変わらない。