佐原愛美が手掛ける「トゥ エ モン トレゾア(TU ES MON TRESOR 以下、トレゾア)」は、ロンドンを拠点に活動する音楽家であるルシンダ・チュア(Lucinda Chua)を迎えたライブパフォーマンス「1988-(イチ・キュー・ハチ・ハチ)」を4月に開催した。会場は、日本のモダニズム建築を代表する吉村順三が長野・南佐久郡に設計した八ヶ岳高原音楽堂。東京から車で2時間半離れた大自然の中に、ファッション関係者や一般客が集まり、特別な一夜を過ごした。
自然に調和した八ヶ岳高原音楽堂
「トゥ エ モン トレゾア」は昨夏、熱海にある吉村建築の邸宅で、ファッションと家具、写真の展示を融合したサマー・レジデンシー・ショップ「1977-(イチ・キュー・ナナ・ナナ)」を期間限定で開いた。今回は吉村建築での企画の第2弾で、佐原デザイナーの「美しい暮らしの風景を想像しながらデザインする」という考えのもと、八ヶ岳高原音楽堂に着想したブランドの新作を披露した。1988年に竣工した八ヶ岳高原音楽堂は、唐松林に囲まれた標高1500mの高原に佇んでいる。自然に調和した六角形の建築物で、暖かい雰囲気の木造の屋根に覆われたホールが特徴的だ。「音楽堂を舞台にするのならば、ファッションショーではなくコンサートを開きたかった」と佐原デザイナー。
美しくしっとりとしたパフォーマンス
今回の「1988-」では八ヶ岳音楽堂を舞台に、ルシンダ・チュアが日本初となるパフォーマンスを披露した。チュアはシンガー・ソングライター、作曲家、プロデューサー、マルチ奏者として活躍する音楽家。これまでにFKA ツイッグス(FKA Twigs)のツアーにチェロ奏者として参加し、ザ・シネマティック・オーケストラにリミックスを提供するなど、多彩な才能を発揮している。3月にはソロデビューアルバム「YIAN」をリリースし、イギリス人の母と中国系マレーシア人の父との間に生まれたルーツと向き合いながら制作した楽曲を収録している。
ライブパフォーマンスは、日が沈み出した午後5時過ぎに開始。薄暗い音楽堂に夕陽が柔らかく差し込み、チュアのささやくように優しい歌声と美しいチェロの音色が響き渡った。披露したのは、今回のために作曲したという楽曲や最新アルバム「YIAN」から「Something Other Than Years」などを含む全7曲。ラストには「An Ocean」をピアノの演奏で歌い、エモーショナルでしっとりとした空気感で幕を閉じた。
音楽を感じるトレゾアの新作
チュアがパフォーマンス中に着用したのは「トゥ エ モン トレゾア」の新作であるホワイトのデニムベストとジーンズ。アーティストの角田純が音楽を表現した曲線や記号などが描かれ、静ひつでありながら、音楽を感じられる洋服である。ブランドとして初めてのデニムベストは、弦楽器の丸みとくびれた形にリンクするような有機的なフォームが印象的だった。
チュアの衣装となったコレクションを含む新作は9月にローンチ予定。また今秋には、1989年に竣工した吉村建築の邸宅で、佐原デザイナーの解釈によって新たな内装を施したイベント「1989-(イチ・キュー・ハチ・キュー)」を予定している。