「ディオール(DIOR)」の研究開発施設であるLVMHリサーチと京都大学iPS細胞研究所(CiRA、サイラ)は、2019年から幹細胞に関する共同研究をスタートした。20年以上にわたり肌の若々しさにかかわる表皮幹細胞の研究事業を続けてきた「ディオール」が、CiRAとともに取り組む研究とは?
WWD:「ディオール」はスキンケア領域でR&Dに大きな投資をしてきた。
ブリューノ・バヴーゼLVMHリサーチ所長(以下、バヴーゼ):良い商品を作るためにまずサイエンスの側面からアプローチした結果、R&Dを強化してきた経緯がある。1月には美容液“カプチュール トータル セラム”を発売した。同シリーズの初代商品が登場した1986年当時、私自身はこのプロジェクトに携わっていなかったが、相当な投資額だったことは言っておきたい。なぜそこまでになったかというと、通常であれば医学分野で活用される研究結果をコスメティクス分野に適用したほぼ最初の企業だったからだ。その中でさまざまな発見があり、もっと納得できる商品が作れるのではとの思いが強くなり、さらに探究を深める流れになった。もちろんサイエンスだけでなく、使う喜びの側面も追求している。
WWD:外部との連携にも積極的だ。
バヴーゼ:今の時代、1社だけで全ての解を見出すのは到底不可能だ。研究を加速させるためにパートナーシップの模索を続けてきた。バイオプリントの分野でフランスのスタートアップと提携したり、バイオロジーの分野で幹細胞の研究をしたり投資額は増えている。バイオプリントの技術を幹細胞研究で応用したのも世界初で、これも偉業と言えるだろう。
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WWD:ディオール サイエンス(LVMHリサーチ)とCiRAの共同研究の目的は?
クヌート・ウォルツェン京都大学iPS細胞研究所准教授(以下、ウォルツェン):共同研究は2019年からスタートしているが、当初面会した際に互いの研究内容をかなりオープンな形で意見交換した。その結果、肌の加齢の仕組みを理解したい思いが共通であることやそれぞれの視点が分かったので、研究が重複する部分についてはパートナーシップを組むことが有用であるとの判断に至った。もちろん究極的な目的は別かもしれないが、人間の体や健康のメカニズムを深く理解しようとする点では一致している。
WWD:幹細胞研究は、従来の治療法では効果が得られなかった疾病の新たな治療の選択肢として期待されている段階だ。
ウォルツェン:幹細胞研究を疾病の治療に役立てるのはもちろん重要だが、それだけではいささか保守的で、もっと広範にテクノロジーを活用することをわれわれは願っている。この共同研究で皮膚の加齢プロセスを解明できれば、再生医療にとどまらず、もっと広いところでそれを応用できる可能性がある。患者だけでなく一般市民にも価値あるテクノロジーを理解してもらうことは大切だ。それが結果的に人類のためになるとわれわれは考えている。
WWD:共同研究のゴールや期間はどう考えているか。
バヴーゼ:ゴールは1つに絞っていない。この研究領域はグローバル規模でナレッジを蓄積し共有しあったその先に見えてくるものを目指している。その中で肌老化の仕組みや根本原因についてどんどん明らかになってきている。最も先進的な技術を扱っているからこそ、このパートナーシップは時間をかけていく必要があり、長きにわたり続くものになるだろう。徹底的に理解するプロトコルを定めて信頼できる結論付けを行なっていく過程そのものが非常に大切だ。研究対象である幹細胞は非常にポテンシャルが大きいと確信している。幹細胞に関する理解が深まり技術が進化を遂げれば、医療だけでなく化粧品へ応用ができるし、化粧品の機能を押し上げる力になるだろう。