東京・原宿を歩いていて、数歩ごとに「やあ!」「元気?」「最近どうよ?」と握手していたのは今は昔。同世代は皆、社長やエグゼクティブ・プロデューサーになってしまって、同エリアで場違いを感じることもしばしばだ。それでも若い友人もいて、その1人である古着店バイヤー(20代)と店先で話していたときのこと。
それなりに(意図しない)威圧感がある僕ら2人に構わず、女性客がラックを物色していく。自分を含めて、実はかなり臆病なおじさんに比べて女性はやはり大胆、というか自分の欲求に正直だ。
10〜20代のインバウンド女子が、ほんの数分で“決定”
と、ここまでは想定内で、ここからが新たな気付き。欧米からのインバウンド客はすっかり復活した印象で、10〜20代の彼女たちが、ほんの数分で購入していく。帰りには、「ありがとう、良い買い物ができたわ」と笑顔だ。バイヤーに聞くと、「シャツで2万円以下なら即決」だそう。
なるほど、僕が駆け出しで、原宿でせっせとセイハローしていた2000年ごろが1ドル107円だとすると、現在は134円なので、ドル圏の人から見たら2割以上安。街中がセール状態というわけか。
そうこうしている内に、「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のジャケットや「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」の靴が売れていく。
圧倒されて(混雑する原宿に“人酔い”もしており……)店をあとにしようとする僕に、バイヤーが「そういえば、三澤さんの着ている『メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)』の最初期の“ハの字ライダース”、不要の際にはぜひ連絡を」と声をかける。「なんで?」と聞くと、「先日、海外のお客さんから『グッドサイズであれば100万円以上でも出す』と言われたんですよ」との返答。
えっ、23年前に初任給を注ぎ込んで15万円で買った“ハの字ライダース”が100万円超!?
確かに、“本人期”(1988〜2008年)の同ブランドの商品が高騰しているのは知っていたが、それほどまでとは……。あっけに取られる僕に、バイヤーが「ほらね」とスマホで「メルカリ(mercari)」の画面を見せる。そこには“60万円でSOLD”の文字。「2次流通でも黒はそれなりに見るんですが、三澤さんの持ってる茶はあまり見なくて、それに状態がかなり良いですよね?」と続ける。
キーワードは“本人期”、1990〜2000年代モノが高値に
興味がわいて、2次流通市場でほかに値上がりしているブランドについて聞く。
「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」の本人期(1976〜2005年)や、1990〜2000年代の「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」、同じく1990〜2000年代の「プラダスポーツ(PRADA SPORTS)」の機能素材モノが高値だとか。
“フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)期”(08〜18年)の「セリーヌ(CELINE)」も引き続き人気で、バイヤーは「“ニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)期”(1997〜2012年)の『バレンシアガ(BALENCIAGA)』にも期待している(すでに買い集めている)」という。
アツいのは1990〜2000年代ね。そう言えば、4月24日発売の「WWDJAPAN」も1990年代を特集している。一世を風靡し、今また脚光を浴びる「ヒステリックグラマー(HYSTERIC GLAMOUR)」や、“ヒョーマくん”の「20471120(トゥオーフォーセブンワンワントゥオー)」、渋谷・並木橋のショップ、パイドパイパーの亀石3兄弟らが登場する。
宣伝はこのへんで閑話休題(笑)。かつては毎日“いた”原宿で、すっかり「猿の惑星」(「ア ベイシング エイプ®(A BATHING APE®)」も93年デビュー♪)状態になると同時に、20年以上前に無理してでも良い物を買った自分を褒めてあげたいと思った。そして、少しでもその良品を長く着られるよう、プロダクトのメンテナンスはもちろん、これ以上おなかが出ないよう、自分自身も節制(&精進!)しなくてはと感じたのだった。