「エルメス(HERMES)」は、展覧会「エルメスのpetit h―― プティ アッシュ」を4月29日から5月18日まで大阪中之島美術館で開催する。展示のほか、予約制フロアでは購入できる一点物も多数登場する。「プティ アッシュ(petit h)」は、エルメス家第6世代のパスカル・ミュサールが2010年に設立した部門(メチエ)であり、現在はゴドフロワ・ドゥ・ ヴィリユー=クリエイティブ・ディレクターのもと、30人のチームで運営している。
「プティ アッシュ」のモノづくりは素材から始まる。他の部門で使わなくなったレザー、シルク、クリスタル、陶器、馬の毛、金属といった素材を職人やアーティスト、デザイナーがあらゆる方法で組み合わせ、調整し、対話を重ねて製作する。結果、思いもよらない形と素材の出会いが生まれるという。「エルメス」はそれを「使われず埋もれかけたさまざまな素材に命を吹き込み、“役割”を与える場所」と表現している。美しさと機能性、上質な素材、卓越した職人仕事、そして遊び心を創造力でもってひとつにする、まさに「エルメス」らしさを凝縮した存在だ。
28日に開いた内覧会で有賀昌男エルメス ジャポン社長は、日本における3度目の「プティ アッシュ」開催について「念願だった」と語り、「すべての素材に価値があると考える『エルメス』と、すべてに魂が宿ると考えてモノを大切にする日本の文化には共通点があると思う。ぜひここに来て、物に宿る価値を一人一人の観点で探し出してほしい」と話した。
大きな鯉のぼりの中はまるでパリの素材庫
会場は2層で構成され、2階の展示エリア中央では大きな鯉のぼりが来場者を迎える。トンネルをくぐるように中に入るとそこにはパリの「プティ アッシュ」のアトリエの素材庫が再現されている。プレタポルテやレザーグッズ、家具、ジュエリーなど各部門から集められた廃棄予定のパーツや生地がところ狭しと並んでいる。ヴィリユーは「アーティストたちはこの素材庫に入ると皆目を輝かせ、驚くほどの速さで自分のお気に入りの素材を見つけ出す。その“反応力”にはいつも驚かされる」と振り返る。
また、鯉のぼりの周りでは「プティ アッシュ」がどのような素材、技術、そして発想から生まれるかを図解とともに解説。「プティ アッシュ」の特徴は、アートのような存在でありながら必ず実用的である点だ。欠けたティーカップから作った置時計“ティータイム”や、水着の素材を使ったマスキングテープ、プレタポルテのボタンから生まれた“塩入れ”など日常使いのアイテムがそろう。ヴィリユーは「ボタンの穴を見たアーティストは“こんなに小さい穴なら塩入れにぴったり”とひらめいた。アーティストの目と、そのアイデアを具現化する職人の技の両方があるから実現している」と説明する。
予約制フロアでは数え切れないオブジェ。購入も可
1階ホールは「プティ アッシュ」の完成品の販売エリア(要予約)で、数え切れない多種多様なアイテムが並ぶ。開化堂との共創など、日本のクラフトやアーティストとの協業も多い。来場者を迎える大きな馬のオブジェは、ねぶたの技法を採用した。
会場の空間デザインを担当したのは、長年「プティ アッシュ」の活動に関わってきたアーティストの河原シンスケだ。パリを拠点とする河原は、独自のジャポニズムを感じさせる表現で知られており、今回は舞台美術のような書割によって「プティ アッシュ」のための空間を描き、来場者が俳優となり物語に入るこむような演出を設けた。
制作時はいつも物語を創るところから始めるという河原は、今回は鳥獣戯画からヒントを得て物語を設定した。猿が随所に登場するのは、彼らが案内役だからだ。「猿は日本ではポピュラーだが、フランスの生活では身近な存在ではない。日本で開催する展覧会の案内役を猿が担い、エルメスの象徴である馬、そしてカエルやウサギをこの世界へと案内することにした」と河原。そんな物語を念頭に会場内を進むとより一層楽しい。
同展の説明に“サステナブル”という言葉はないが、その言葉が広く使われる前に始まり継続してきた「プティ アッシュ」の活動は、これぞサステナブルなモノづくりと言えるだろう。
■「エルメスのpetit hープティ アッシュ」
会期:2023年4月29日(土・祝)~5月18日(木)
住所:大阪府大阪市北区中之島4-3-1大阪中之島美術館
開催時間:
・2階多目的スペース 展示エリア(入場無料) 10:00~18:00
・1階ホール 販売エリア(入場無料 / 要予約) 10:00~18:00
・2階芝生広場 プティ アッシュ カフェ 11:00~18:00
※展示エリアは混雑状況により入場制限
※プティ アッシュ カフェは天候により中止の可能性あり