ファッション

神戸発シューズブランド「オッフェン」好調の理由 真摯な靴づくりの裏側

 2021年2月に誕生以来、口コミをベースに人気を高めているシューズブランドがある。セレクトショップのVMDやバイヤー、ディレクターを経験した、日坂さとみが手掛ける「オッフェン(OFFEN)」だ。ブランド名はドイツ語で“開放的な” “オープン”を意味する。

 軽い履き心地で足が疲れにくく、摩擦に強く、環境にも優しいのに“かわいい”——そんなシューズで“歩く楽しみ”を提案している同ブランドは、2万円以下という価格帯もあって幅広い層から支持を集め、立ち上げから2年目の22年の売上高は前年比230%、23年も150%のペースで推移している。伊勢丹新宿本店で4月5日から1週間開催したポップアップでは665足を販売し、1000万円以上を売り上げた。しかし日坂の歩みは至って堅実だ。素材や靴づくりの工程を徹底して調べ、開発には2年をかけるなど、シューズにもその誠実さが表れている。彼女の真摯なものづくりへの思いを聞きに、22年11月に創業地・神戸にオープンした初の路面店「オッフェン キタノ ハウス(Offen Kitano House)」を訪ねた。

“何を作るか”より
“余分を減らしてどう作るか”

WWDJAPAN(以下、WWD):環境に配慮したブランドを立ち上げようと思ったきっかけは?

日坂さとみ「オッフェン」プロデューサー(以下、日坂):一番は、子どもが生まれたことですね。それまでは買い物の基準も特になく、トレンドのアイテムを選んでいたのが、子どもが生まれ、子ども服の素材や環境、子育てについてなどいろいろ調べるようになり、自分が生産の裏側まで知らずに購入していたことに気付きました。

 ブランド立ち上げに当たり、エシカル協会主催の「エシカル・コンシェルジュ講座」を受講していたのですが、坂野晶・元ゼロ・ウェイストアカデミー理事長の講義で、“ゼロ・ウェイスト(無駄や浪費をなくし、ゴミをゼロにすることを目標に廃棄物をできる限り減らす活動)”を実践する、徳島・上勝町に行く機会があったんです。そこで実際に分別されたゴミを見たときに、ほかのゴミは小分けにしてリサイクルできるのに、靴とバッグには“焼却”と書かれていたことに衝撃を受けて。これからものづくりに携わる人間として、ゴミが出ない仕組みに変えないと、自分の中のモヤモヤが晴れないと思いました。

WWD:「オッフェン」で大切にしていることは?

日坂:“ゼロ・ウェイスト”の考え方をベースに、ゴミが出ないように作るにはどうすればいいかを考えています。まずは生産工程を減らそうと、靴のパーツから見直しました。

WWD:具体的には?

日坂:「オッフェン」は、パーツを従来のパンプスの約半分に減らして作っています。通常パンプスは、中底や中敷、裏地、かかとの形状を保つ月型芯など、形状維持や結合のためさまざまなパーツを使います。そのため家庭で廃棄する際に分解できず、焼却処分になってしまう。「オッフェン」では、靴の加工に問題がない最小限までパーツを絞り、1足にかかる生産時間を半減させて、生産稼働率を上げました。これまでの靴づくりとは全く違う工程なので、2019年から工場と話し合いながら、約2年かけて製品化しました。

WWD:素材にもこだわっていると聞く。

日坂:アッパーはペットボトルの再生糸を100%使用し、独自に撚糸調整して強度を出しています。実は、ペットボトルの再生糸は靴に適した素材なんです。最初は違う素材を選んでいたのですが、長く使えて、劣化しにくいものを探していくうちに、たどり着きました。インソールは生物由来の資源を原料にしていて、約5年で生分解されます。取り外し可能なので自宅で洗えますし、インソールのみの買い替えもできます。ソールは、赤ちゃんの哺乳瓶と同じ成分で開発したオリジナルで、シリコンのような素材で摩耗に強く、丈夫です。製造方法も、機械でアッパーの形に編み上げることで裁断くずを極力減らし、ソールはカップに流し込んで作ることで、無駄が出ないよう配慮しています。

WWD:靴以外のこだわりは?

日坂:家に持ち帰ったときに捨てるものが出ないようにしたかったので、靴箱はありません。リユース可能な丈夫なペーパーバッグでお渡ししています。水で洗えるぐらい丈夫な再生紙で、観葉植物のプランターカバーや野菜を保存するバッグとしてなど、いろいろ活用できます。型崩れを防ぐ付属のシューキーパーは、トウモロコシやキャッサバのでんぷん質から生まれた、植物由来の生分解性プラスチック。コンポストで土に還ります。

WWD:デザインについて教えてほしい。

日坂:「オッフェン」は“何を作るか”ではなく、“余分なものを減らしてどう作るか”からスタートしたブランド。シーズンレスかつシーンレスで長く履いてもらえる靴を目指しています。私自身もともとスニーカー派で、たまにきれいめなスタイルをするときもヒールを履く勇気はなく、スニーカーとヒールの中間の靴があればとずっと思っていました。私たちの靴は、スニーカーのように軽快に歩けるけれど、見た目はエレガンス。“ポインテッドトー”“スクエアトー”“ラウンドトー”の3型を軸に、履き口のパターンで変えています。「オッフェン」で人気のベーシックなものに加え、リボンやフリル、ストラップなど女性らしいデザインも作っています。

WWD:フラットが特徴だが、今後ヒールを展開していく予定は?

日坂:作りたい気持ちはありますが、現在の靴づくりの工程では難しいので、無理せずフラットで、スニーカーに代わるエレガンスを追求したいです。

どうすれば“本物”になれるか
真の循環を目指して

WWD:ファッション業界歴が長いが、その経験が今どう生かされている?

日坂:「リステア(RESTIR)」ではVMDを、「ルシェルブルー(LE CIEL BLEU)」ではバイヤーとディレクターを経験しました。あの16年間で見せてもらったものは、ファッションの本質だったと思います。ファッションは心躍るものでないとテンションが上がらない。そして、どのアイテムにもデザイナーのストーリーが込められている。手に取ったときに感動するか——「オッフェン」の靴を作るときも、そういった思いを忘れないよう心掛けています。多くのブランドを見てきたからこそ、どうすれば“本物”になれるだろうと常に自問自答しています。そういうものづくりに対する考え方は、すごく学びましたね。

WWD:初の路面店を神戸・北野に決めた理由は?

日坂:神戸発のブランドなので、まずはこのエリアに出店したかった。“街中でも自然を感じられる場所”が出店の条件で、ここは日の光が入り、山も近く、1日の流れを感じられる。神戸は新しいものだけでなく、古いものも大切にしている街なので、ブランドコンセプトにも合っていると感じました。

WWD:この店舗ならではのこだわりは?

日坂:元の空間をあまり手直しせずに生かしています。家具も全てビンテージで、机やソファ、ラグなどもアップサイクル。新しい資源をできる限り使わずに店舗作りしました。将来的には、広尾で行っているようなワークショップやイベントをここでも開いたり、神戸の若手デザイナーともシェアしたりするスペースにしたい。だからシューズブランドとしては珍しく、フィッティングルームも作りました。いろいろな人にお声がけする予定です。

WWD:今後の目標は?

日坂:私たちはスローペースなブランドです。リピーターも多く、うれしいことに親子孫3代で履いてくださっている方もいて、口コミで広がっているのを感じています。急ぎ過ぎず、求め過ぎず進んでいますが、真剣にものづくりをしているので、より多くの人に知ってもらいたいという思いもある。現在は神戸の路面店と西宮阪急百貨店、東京・広尾に予約制サロンを構えており、今後はブランドの認知度を上げるためにも、もっと多くの人に「オッフェン」の世界観に触れてもらえる場所を作っていきたいです。

 そして、ものづくりもまだ完成しているわけではありません。靴づくりの3R(リデュース、リユース、リサイクル)を実現させたので、次は「オッフェン」の靴をもう一度何か別の形に変えてリサイクルするという、本当の意味での循環を作ることが、自分が納得できるゴール。私たちのブランドだけでは難しい部分もあるので、循環を実現できるパートナーを探して2030年までにかなえたいです。

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