時代の寵児NIGOが、かつてプロレス興行をプロデュースしていたことは有名な話だ。近頃は百貨店でもプロレス興行が行われるらしい。ファッション業界では今も昔も、プロレスに対して楽観的で少々騒がしい。「WWDJAPAN」3月20日号の「ファッションパトロールで、プロレス好きな女子、通称“プ女子”を取り上げた。元バッグブランドPRのタイガー・ネロさんは、2019年に仕事でたまたまプロレス観戦をして以来、見事にプ女子化してしまった令和のプ女子代表。そんなネロさんが迎え撃つのは、「プロレスリング・ノア(NOAH)」の清宮海斗選手だ。爽やかなルックスと華麗なパフォーマンスで、プ女子からも絶大な人気を誇る、若手No.1の実力者。2人のマッチアップから探る、プロレスの魅力とは?戦いのゴングが今鳴る!
タイガー・ネロ(以下、ネロ):仕事がきっかけで、2019年に初めてプロレスを観たんです。それまで、プロレスってゴツゴツした人たちが汗臭く戦っているんだろうなってイメージがあったんですけど、こんなに華やかなでエンターテインメントな世界があるんだって知って。そこから一気にハマりました。
――プロレスファンって男性ばかりだと思ってました。
ネロ:女性のお客さんがどんどん増えていて、団体によっては半分以上が女性。令和のプロレスファンは推し活文化も混ざっているので昔よりもポップで、アイドルを追いかける感覚のファンも多いですよ。もちろん、清宮さんは若いのに技術もある選手なので、目の肥えたファンは技術を見て楽しんでいます。清宮さんはリングの上ではめちゃくちゃかっこいいんですけど、オフのときの笑顔が素敵なんです。それとちょっと天然なところ。
清宮海斗(以下、清宮):全部バレてる……(笑)。
――ところで、その手に持っているのは?
ネロ:ファンクラブ限定のアクリルスタンドです。持ち歩いて、たまにプ女子仲間と“祭壇”を作って拝みます(笑)。
清宮:うれしいですね。常に傍に置いていただいていると思うと。
ネロ:清宮さんの一番見て欲しい技って何ですか?
清宮:今だと“変形シャイニングウィザード”ですかね。武藤(敬司。2月に完全燃焼で現役引退)さんとシングルマッチを何度もやらせていただいて試合で使うようになったんですけど、気持ちがすごく入りますね。
ネロ:清宮さんは、武藤さんからいろんな技を継承されていますよね。でも三沢(光晴、プロレスラーで2009年に逝去)さんの系譜もあって、武藤さんの香りもするハイブリッドレスラーなんです。
清宮:三沢さんは僕がプロレス業界に入るきっかけを作ってくれた人です。
――と言いますと?
清宮:子どもの頃は家族でレンタルビデオ店によく行っていて、ある日たまたま手に取ったのがプロレスのビデオでした。その試合が三沢さんと高山(善廣)さんのシングルマッチで、それを見た瞬間に感化されちゃって。
――VHS(ビデオ)かぁ、懐かしいな。令和のファンはどこで情報を集めるんですか?
ネロ:ツイッターとかインスタグラムとかユーチューブなんかで情報を集めています。最近はティックトックを始める団体も増えていますよね。
清宮:ファンの方がSNSを見てくださっているので、そこでも自分をアピールしないと。言いたいことはツイッターで言うこともありますね。
――マイクパフォーマンス的な?
ネロ:選手によってですけど、SNSで煽ったり意思表明したりして、それをファンはハラハラドキドキしながら見守っているんです。清宮さんも最近、新日本プロレスのオカダ・カズチカ選手とバチバチやられていて、すごかったですよ。日本を代表するトップレスラーのオカダさんに、若い清宮さんがどんどん噛みつくっていう。
清宮:言える場所があるなら、とことんやってやるって感じですね。
――体作りや練習で鍛錬しながら、SNSでファンサービスもしなきゃいけないとか、やること多い!
清宮:でもツイッターなんかは、自分が発信するだけじゃなくてコメントもいただけるので、それがまた次のモチベーションにもつながるんですよ。ファンと支え合っている感覚です。
ネロ:応援しているファンの熱量がすごいんです。試合は試合で、華やかな技の攻防や破裂するような打撃音などをライブで感じてアドレナリンがブイブイ出て楽しいんですが、SNSで選手のキャラクターを知ってから観ると、より楽しいんです。プロレスって競技人生が長いので、ある意味レスラーの人生も一緒に見ているような感じ。
――確かに。20代と50代がリングの上で戦うスポーツってあまり無いですね。
清宮:珍しいと思います。リング上で表現できることがものすごく多いので、経験がリング上で出ますし、ただ体力があったり、力が強かったりだけでは勝てない。
――かっこいいなぁ。清宮さんがリングの上で大切にされていることって何ですか?
清宮:やっぱり自分の中の「NOAH」を好きな気持ちですね。それがあるから、ずっと戦える。
ネロ:そういう想いを聞くとグッときますね。実は19年は「NOAH」の転換期で。盟主の三沢さんが亡くなられてから、業界のトップから一時は経営難で明日もわからぬ状態になり、苦しい時代を経て徐々に人気を回復させて、そこからサイバーエージェントの傘下になり、今では業界No.1をまた目指せる勢いのある団体になりました。そのキーマンが清宮さんなんです。基は力道山さんから始まり、猪木さんの新日本や馬場さんの全日本ができて、更にいろんな団体や選手に脈々と繋がっていて、もう大河ドラマを見ている感じですね。
――おぉー。大河ドラマですか。
ネロ:レスラーには先輩と付き人があって、先輩の匂いを継承していくんです。スタイリストとかもそうじゃないですか。
――確かに。清宮さんの先輩に当たる人は?
清宮:僕は小川良成さんですね。ゼロからプロレスを教えていただきました。
ネロ:小川選手は某バラエティー番組で話題になるぐらい、デビュー当時から見た目が全く変わらないんです。奇跡の50代レスラーです。
――羨ましい……。ちなみに、清宮さんが体作りで気をつけていることは?
清宮:とにかく、たくさん食べることです。ちゃんこで一気に栄養とタンパク質を取る。食べないと、激しいトレーニングですぐに体重が落ちてしまうんですよね。1回の巡業で5kg落ちることもあるんで。
ネロ:羨ましい……。そういえば以前、杉浦貴選手から「100kg超えても腹が割れていなきゃダメだ」って言われていませんでした?
清宮:言っていただきましたね。僕の理想の体型です。でもすごく難しいんですよ。
――筋肉無しではやはり戦えない?
清宮:戦えないですね。筋肉がないと、まず技を受けられないので。
ネロ:筋肉がぶつかり合う音、すごいですよ。
――痛そう……。痛くて逃げ出したくなることはないんですか?
清宮:いやぁ、さすがに(苦笑)。でも悶絶するぐらい本当に苦しいときはあります。それでも逃げ出そうとは思いませんけど。
ネロ:チョップがえぐいと本当に鬱血して、胸が裂けちゃったりしますもんね。見た目もすごく痛そうなんです。
――そこまでして戦うプロレスの魅力って……?
清宮:僕がプロレスを好きになった理由は、何度やられても立ち上がるプロレスラーの姿に感動したからなんです。もちろん、勝ち負けも重要だとは思うんですけど、戦いの中で見せる闘志みたいなものがすごく大事だと思うし、それを見てくれている人に伝えられればいいなと思っています。
ネロ:華やかな技やかっこいいビジュアルにも目を奪われますが、やっぱり一番はそこに感動するんです。仕事をしていると、どんなにその仕事が大好きでも心を折られることってあるじゃないですか。でもプロレスを見るようになって、何度も立ち上がるレスラーのマインドを知ったとき、わかったんです。失敗してもいいし、倒れてもまた立ち上がればいいんだって。だから、仕事を頑張っている人には、プロレスを見てほしい。
――分かる気がするなぁ。怪我がつきものだから、体調管理も大切ですよね。
清宮:大怪我になる前にしっかりとケアすることですね。ちょっとでも違和感を感じたら早めに治す。プロレスの試合は見た目以上にダメージが大きいので、思わぬことが大事になりかねない。だけど、テーピングとかを巻いちゃうとそこを攻められるのがプロレスなんで、弱点を晒さないのも戦略ですね。たとえ怪我をしていても、戦いは避けられない。
――血が出ているのを見ると怖いな。
清宮:そういう試合もありますけど、毎回起こるわけではないですよ。長きにわたる因縁のぶつかり合いがそうさせるんでしょう。
ネロ:清宮さん、ミニバンにはねられたことありますよね?
清宮:あります!グレート・ムタと試合をしたときに場外乱闘になって、気づいたときには目の前からミニバンが突っ込んできてました。
――えー!大丈夫だったんですか?
清宮:大丈夫じゃないです(笑)。
ネロ:そういう事件も起こったりするので、本当に非日常。
――プロレスの魅力ってそういうところなのかも。
ネロ:老若男女、幅広い年齢の人が楽しめる格闘エンターティメントですよ。見れば元気になるし、ワクワクする。たとえ選手の名前も技も何も知らなくても、見ただけでこの人がヒーロー、ヒールって言うのが一発で分かる。いろんな魅力があるんです。
清宮:そう思っていただけているのはうれしいですね。「NOAH」を大きくしていくのが僕の夢なので、その夢を本気で追っている姿を是非見てほしいです。