ファッション

アパレルEC最強の黒子企業が「WEB3.0」に本気で挑むワケ BBF田村淳社長に直撃

田村淳ビービーエフ社長

1974年10月3日生まれ、群馬県出身。ブロードバンドタワー在籍中の2005年にBBFを設立し、社長に就任。120サイト以上のEC運営支援を手掛けるBBFはファッションEC支援のトップ企業の一つ。BBFの21年8月期の業績は売上高385億円、経常利益8億5500万円、純利益5億5800万円。総資産99億400万円に対し、純資産は53億6600万円

 ファッションEC受託運営の最大手ビービーエフ(以下、BBF)は、ブロックチェーンやNFTを活用したウェブスリー事業支援に本格的に乗り出す。このほど第一弾として、既存のNFTをより有効に活用できる新しいプラットフォーム「シルル(SILURU)」をスタートした。

 2005年10月設立のBBFはファッション企業を中心に120サイト以上のECの運営支援を手掛け、直近の22年8月期の年商は405億円。アパレルのEC支援企業としては圧倒的なナンバーワン企業であり、東証プライム上場のヒト・コミュニケーションズ・ホールディングスの中核子会社の一つでもある。ただ、これまでは黒子に徹し、創業者の田村淳社長もメディアに出ることはなかった。なぜいまウェブスリーなのか、そしてファッションとウェブスリーの今後をどう見ているのか。ベールを脱ぎ捨て姿を表した、ファッションEC界最強の起業家の一人、田村社長の独占インタビューをお届けする。

WWD:なぜ今ウェブスリーを?

田村淳BBF社長(以下、田村):18年前にBBFを起業したのは、当時徐々に真の姿を表しつつあった、ECという“新しいインフラ”を作りたかったから。ECには、決済、物流、在庫運用、CRM、コミュニケーションなどビジネスのためのすべての機能やツールが必要になることがわかっていたが、そもそも服がECで売れるとすら思われていなかった。だからこそ商機もあった。けど今ECには、安価で便利なテクノロジーも増え、それ自体が「コモディティ化」している。2022年にGMV(流通総額)が1970億ドル(約26兆円)のECカートの最大手企業ショッピファイ(SHOPIFY)は、その象徴だろう。

WWD:というと?

田村:誤解を恐れずに言えば、フォロワー数の多いインスタグラマーとショッピファイのアカウントさえあれば、すぐにビジネスができてしまうということだ。BBFはこれまで、ECに必要なものはすべて提供することを目指してきた。だが、ツールが便利になって、我々のような運営代行企業は存在意義が問われている。危機感は相当強い。

ファッションブランドが「web3.0」に取り組むべき理由

WWD:ではファッションブランドが「ウェブ3.0」に取り組むべき理由は?

田村:この数年、ウェブスリーに関して自分でもNFTを購入したり、「アンブッシュ」と組んで共同でNFTの開発・運営も行ってきたが、そこで見えてきたのは、ファッションブランドは非常にウェブスリーと相性がいいということだった。ウェブスリーで重要なのは、基盤となる世界観で引きつけ、SNSなどのコミュニケーションを通し、コミュニティーを醸成すること。実際ファッションブランド運営とかなり近い。加えて、ウェブスリーの特性自体が既存のビジネスをさらに拡張できる可能性もある。例えば「転売」だが、ウェブスリーを使えば、転売されるごとにブランド側に一定の金額を得られるし、デジタルデータなので商品の劣化もない。

WWD:ファッション×ウェブスリー市場はどこまで伸びる?

田村:僕はウェブスリー全体やNFT市場の動向を語る立場にはない。ただ、一つ言えるのは、市場の規模としてはまだ夜明け前であり、けどものすごい大きな市場にになっていくことは見えてきたということ。つまり、まさにECが立ち上がるときのような、むしろもっともっと大きくなる市場がいままさに立ち上がろうとしているのだ。

 未整備な部分も多いし、いまアパレル企業が乗り出そすと、大変なことも多い。ブロックチェーンの仕組みも複雑だし、NFTの運用にも技術やノウハウが必要になる。だからこそ、ビジネス的にはめちゃくちゃ面白いし、僕らが取り組む意義がある。

「シルル」の狙いはNFTの再活性化
コラボ相手をマッチング

WWD:「シルル」はどういった仕組みなのか。

田村:「シルル」はいわば、既存のNFTをより活性化するための仕組み、プラットフォームのようなものだ。例えば、ファッションブランドが、NFT所有者だけが訪問できる限定ECサイトやメタバース空間の中で限定アイテムの販売をできたり、メタバース空間でのファッションショーや音楽ライブといった所有者限定のエンターテイメント体験を提供したりもできるし、すでにNFT化した作品のコラボレーション相手を探すことなども可能だ。

WWD:もう少し噛み砕くと…?

田村:先ほども言ったが、NFTは「作って流通させて終わり」ではなく、コミュニティを醸成し、価値を高め続けることも重要になる。「シルル」は、そのために必要な機能をプラットフォームのような形で提供している。ECサイトでも、決済のためのカートだけでなく、会員の購買履歴を分析するためのツールやウェブ上で試着できるサービスがあるが、それと同様に、NFTを作って、より価値を高めていくための色々なツールや仕組みを実装しているし、今後も拡張していく。

WWD:これまでは黒子に徹して、ほとんど表に出ることはなかった。

田村:BBFを立ち上げて18年になるが、実はこれまでプレスリリースを出したことすらなかった。会社の公式サイトもあえてできるだけ情報を絞って1ページの概要欄のみ。必要がなかったからだ。だが、先ほども言ったようにウェブスリーはまだ「夜明け前」。いまは顔を出し、メディアの力も借りて、仲間や同志を増やすタイミングだ。NFTも今はまだ限られた人だけのニッチな市場だが、いずれはファッションブランドのように多くの人が、好きなキャラクターやブランドのものを所有するような時代がすぐに来る。緻密に積み上げた数字ではないが、3年でNFT関連事業で当社も売上高100億円くらいは目指したい。

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