ファッション

カール・ラガーフェルドへのオマージュが満開 メトロポリタン美術館の「ア・ライン・オブ・ビューティ」現地リポート

 アメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館で5月2日(現地時間)の朝、2019年に亡くなったカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の偉業を讃える回顧展「ア・ライン・オブ・ビューティ」のオープニングイベントが行われた。メトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートの今年の特別展は、5日にスタート。7月16日までの期間限定でお披露目される。偉大なるデザイナーへオマージュを捧げる回顧展を一般公開に先駆けてリポートする。

メットガラ同日のプレスプレビューは
すでに熱気を帯びていた

 毎年エンターテインメントとしても注目の「メットガラ」当日の朝に行われた「ア・ライン・オブ・ビューティ」のオープニング。メトロポリタン美術館のエントランスは、カール・ラガーフェルドの横顔を模したイラストの大きなテントで覆われ、朝からセレブ待ちの人々やマスコミのカメラマンでごった返していた。オープニングイベントの会場も、立ち見が出るほど。カールにオマージュを捧げるべく、「シャネル(CHANEL)」に身を纏った人々があちこちで見受けられた。

 オープニングでは、今回キュレーターを務めたメトロポリタン美術館コスチューム・インスティテュートのアンドリュー・ボルトン( Andrew Bolton)や友人のカーラ・ブルーニ(Carla Bruni)が生前のカール・ラガーフェルドとのエピソードを交えながら挨拶した。オープニングにはアナ・ウィンター(Anna Wintour)米「ヴォーグ(VOGUE)」編集長兼コンデナスト(CONDENAST)アーティスティック・ディレクターをはじめ、トム・ブラウン(Thom Browne)の姿もあった。

 本展では、1950年代から生前最後となった2019年のコレクションから厳選した200点以上の作品がカールの直筆のデッサンとともにトリビュートとして展示されている。「シャネル」「フェンディ(FENDI)」「クロエ(CHLOE)」、そして自身のブランドとなる「カール・ラガーフェルド」といったさまざまな特徴を持つブランドを多彩なアイデアと精緻な手仕事で未来を見据えたデザインとして形にしてきた様子が垣間見える。一人のデザイナーの功績は、まるでファッションの一つの時代を切り取ったかのような見応えだ。

曲線が織りなす対比のクリエーション

 ドキドキとした心持ちで会場へ足を踏み入れると、カールの華麗なデッサンの様子を映し出したスクリーンが出迎えてくれた。今回の回顧展でもほとんどのルックにデッサンが添えられているが、彼のクリエイションはデッサンから始まると言っても過言ではないほど、要となるものなのだろう。ちなみに「ア・ライン・オブ・ビューティ」の展示スペースのデザインは、安藤忠雄が手がけている。両者の出会いは1996年というが、ラガーフェルドのアトリエを再現した展示スペースの中にも安藤の本が置かれているなど、生前から交流があったという。今回は直線と曲線が生み出すダイナミズムを表現している。

 展示スペースの最初の部屋は、カールのデッサンを緻密な手仕事によって具現化してきたプルミエールたちがラガーフェルドとの思い出をフランスの映像作家ロイック・プリジェン(Loïc Prigent)によるインタビューで語った映像とともにコレクションが紹介されている。ファーやスパンコールがさまざまなテクニックによってルックに落とし込まれているのを間近で見ることができるが、カールという一人のデザイナーが「シャネル」「フェンディ」「クロエ」のメゾンの特徴を捉えながら、プルミエールが最高のテクニックで仕上げているチームプレーに感嘆する。

 テーマによってさまざまな部屋が登場するが、「ア・ライン・オブ・ビューティ」はロココ時代の画家ウィリアム・ホガース(William Hogarth)の「美の解析」から着想を得ている。カールのコレクションは直線と曲線からインスピレーションを得て二面性を強調していると言われているが、本展でもさまざまな曲線に焦点をあて、「フェミニン・ライン/マスキュリン・ライン」「ロマンティック・ライン/ミリタリー・ライン」「ヒストリカル・ライン/フューチャリスティック・ライン」など、対比するテーマを掲げたコレクションが一つの部屋に飾られている。実際に一つ一つのルックを間近で目にすると、オートクチュール並の精緻な技術に驚かされる。また「シャネル」や「フェンディ」など、元々メゾンが持つイメージをラガーフェルド流にデザインに落とし込んでいるのは理解できるが、一つの回顧展を通して見ると、そのクリエーションの幅の広さを改めて感じることができる。

常に未来を見据える。
ファッションには遊び心を

 約65年にも渡ってファッションデザイナーとしてトップを走り続けてきたカールは固定概念に捉われず、常に未来を見据えてきた。さまざまな年代が入り混じる回顧展を見回しても、全てのルックがタイムレスなものに見えてくる。メゾンのアーカイブを大切にしながらも、ファッションの楽しさを忘れないデザインを盛り込むなど、ここでも二面性を大切にしている。特に「カール・ラガーフェルド」では自身をキャラクター化するなど、ちょっとした皮肉や遊び心を最大限に活かしている。

 多くの偉大なるデザイナーの中でもさまざまなメゾンを手がけ、一時代を築いてきたカール・ラガーフェルド。彼へのオマージュとなる「ア・ライン・オブ・ビューティ」をお見逃しなく。

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