ファッション

原英莉花プロに何を着せるか ゴルフウエアメーカーの選手担当の仕事

 国内の女子プロゴルフツアーは賞金総額で男子を上回る人気ぶりだ。芝の上で激しい戦いを繰り広げているのは、選手だけではない。国内ツアーは市場規模1059億円(2022年見通し、矢野経済研究所調べ)と言われるゴルフウエアの覇権をめぐる舞台でもある。選手が試合で着るのは、そのシーズンの店頭と連動した強化品番。選手の活躍やSNSなどでの拡散が売り上げに結びつき、長期的なブランディングにもつながる。

 ヤクルトの三冠王・村上宗隆選手との熱愛報道でも話題の原英莉花プロは、ゴルフ界の“オシャレ番長”の異名を持つ。

 そのファッションが改めて注目されたのが昨年11月、大王製紙エリエールレディス(愛媛県・エリエールGC松山)だった。彼女の出で立ちは、豹柄のパンツとキャップ。女子プロが試合で着るウエアとしては異例だ。ブランドは、ゴルフウエア最大手TSIホールディングスの「パーリーゲイツ」である。特にちょこんと二つの耳がついたキャップはインパクト大で、スポーツ紙(ウェブ版)には「レオパード柄のパンツ、キャップ姿で視線くぎ付け」(日刊スポーツ)、「全身ヒョウ柄ウエアで攻める」(スポーツ報知)の見出しで報じられ、SNSで拡散された。

 「キャップは店頭ですぐに売れ切れました。ダメモトで『被ってくれたらいいな』と思って提案したのですが、原さんらしく最高にかっこよく着こなしてくれました」。原プロを担当するTSIの奥山ゆかりさんは振り返る。ちなみに豹柄と報道されたウエアは、正確には干支にちなんでデザインした寅柄だという。

 国内ツアーは3月から11月の週後半に全国各地を転戦する。TSIで選手担当の奥山さんは、原プロが宿泊するホテルに試合用のゴルフウエアを月曜着で送る。「たとえば2試合分であれば、10コーデ分くらい届けます。練習日に着るか、試合日に着るかの選択は本人次第。ただ、試合の時に着てほしいコーデはプッシュします。ゲン担ぎも大切です。原プロは紺と白、上田桃子プロは赤が今年の勝負カラー。ふだんから本人とLINEで画像を交えながらやりとりし、リクエストに応えます」――。

選手が着用するウエアは店頭のVMDと連動

 TSIは「パーリーゲイツ」「ジャックバニー」「ニューバランスゴルフ」「セントアンドリュース」「ピン」といったブランドを展開するゴルフウエア最大手だ。主力ブランド「パーリーゲイツ」の23年2月期の売上高は170億円(「マスターバニーエディション」を含む)で、10年間で3倍に成長しており、TSIでも最大の稼ぎ頭でもある。同社の契約選手は男女合わせて45人前後。女子では「パーリーゲイツ」の上田桃子プロ、原英莉花プロ、「ニューバランスゴルフ」の稲見萌寧プロといった人気選手を擁する。

 有望な選手に対してはアマチュア時代からブランド間で熾烈な獲得競争が繰り広げられる。TSIは2012年から小学校および中学・高校生を対象にしたゴルフ大会「ジャックバニー・ジュニアゴルフツアー」を開催してきた。ここでの優勝者および上位入賞者にモニターとしてウエアを提供し、プロ入り後に本契約することも少なくない。原プロとの縁もこの大会から始まった。

 TSIの選手渉外の責任者であるスポーツマーケティングセレクション長の池田雅人さんは「契約は運とタイミングにも左右されます。新人の場合、将来、活躍できるかは誰にも分かりません。賭けでもあります。それにゴルフがうまいだけでなく、ブランドとの親和性を見極めることも大切です」と話す。

 ブランドにとって契約選手は広告塔であり、マーケティング戦略上も重要なポジションを占める。「ニューバランスゴルフ」担当の新戸沙矢香さんは、売れ行きについての正確な相関関係のデータはないと断りながらも「選手が優勝すれば(メディアを通じた)露出効果でブランドの認知は確実に高まる」という。

 「ニューバランスゴルフ」が契約する稲見萌寧プロは、21年の東京五輪で銀メダルを獲得して、ふだんゴルフを見ない人たちにも知られるようになった。その後、国内女子ツアーでも優勝を重ねて、同年の賞金女王に輝いた。彼女のメディア露出の急増も追い風になって、21年2月期に27億円だった「ニューバランスゴルフ」の売上高は23年2月期には44億円まで拡大した。

 「パーリーゲイツ」でも「ニューバランスゴルフ」でも選手が着用するウエアは、店頭の強化品番と連動する。「ジャックバニー」を担当する大柄富美子さんは「その新作が店頭に並ぶのと同じタイミングで服を渡します」と説明する。優勝時に着ていた服はブランドのSNSで拡散するとともに、店頭の陳列でも目立つところに置かれる。ウィメンズとメンズのデザインは連動しているため、女子プロが着ていたデザインのメンズ版が売れる現象も生まれる。

 選手自身の発信力も大きい。原プロはインスタグラムのフォロワーが40万を超える。彼女が活躍し、おしゃれなウエア姿がインスタに上がれば、瞬く間に拡散される。冒頭で紹介した豹柄はそういった事例の一つだ。
 

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