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佐藤可士和×河村康輔 「UT」の新コンセプト“WITH UT”は“カルチャーとともにある”

 ユニクロ(UNIQLO)」のグラフィックTシャツブランド「UT」が、新しいコンセプト“WITH UT”をスタートした。考案者は、「ユニクロ」最重要人物の一人、佐藤可士和だ。このコンセプトは、これまで「UT」がTシャツを通して発信してきたさまざまなカルチャーをさらに盛り上げ、改めて「カルチャーとともにある」ことを宣言するもの。まずは東京、札幌、名古屋、大阪、博多の街に屋外広告を掲載し、コンセプトを大きく打ち出していく。佐藤と、昨年、「UT」のクリエイティブ・ディレクターに就任した河村康輔に、“WITH UT”に込めた思いを聞いた。

――可士和さんは「UT」の生みの親でもありますが、今の「UT」をどう見ていますか?

佐藤可士和サムライ代表(以下、佐藤):「ユニクロ」は、僕が入る前から、まだそんなにたくさんではなかったけれど、グラフィックTシャツを売っていたんです。(NYの)ソーホーにグローバル旗艦店を出店したとき、「UT」の前身となる「ジャパニーズポップカルチャープロジェクト(JAPANESE POP CULTURE PROJECT)」を立ち上げました。アートだけじゃなく、漫画、アニメ、ゲームなど、Tシャツを通じて日本の文化を紹介するという今の「UT」のベースになるような企画です。それがアメリカでものすごく反響があって、その後、柳井(正)社長から「Tシャツをリブランディングしたい」と「UT」が誕生しました。そこから始まって、NIGO君(2013〜19年)に入ってもらったり河村君(22年〜)に入ってもらったりしながら、かなり幅広く協業できるようになりました。当時を思い返せば、例えば、グローバル旗艦店の近くにあるモマ(MoMA)と協業したいと、早い段階から夢はあったのですが、なかなか実現はしませんでした。そういう意味で、今さまざまなところと協業できるようになったのは、とても素晴らしいことだと思います。一方、広がったことで、いわゆるサブカルチャーのようなディープなカルチャーがメジャーコンテンツに紛れてしまう。河村君が来たことで「UT」らしさを取り戻せるきっかけができ、リスタートを切れました。僕はそんな感覚なんです。

河村康輔(以下、河村):すごく嬉しいです。この1年は初めてのことだらけで、挑戦というか。いろいろやってみて、常にその反応の答え合わせと勉強をしている感じでした。

――「UT」は当初からアングラやサブカルのアーティストやクリエイターをフックアップしています。「UT」のようなビッグコンテンツと、そういったカルチャーをつなげるときに気にかけていることはありますか?

佐藤:「UT」はあくまでもメディアの役割。元々、“Tシャツプラットフォーム”ブランドにしようと考えていたんですね。白いキャンバスがあり、そこにコンテンツを載せていく。だから、そのコンテンツに対するリスペクトは絶対に忘れてはいけません。会社が大きくなればなるほど、当然、売り上げも同時に追い求めなければいけませんが、“WITH UT”は、改めて「カルチャーとともにある」ことの表明でもあるんです。ロゴの空白の部分(上部の空欄)は、無限の可能性を意味していて、表記は自由。カルチャーが「UT」に集い、カルチャーを盛り上げ、ともに成長するというメッセージです。

河村:これまでよりももっと広くて、自由で、本来のTシャツのイメージですね。

佐藤:Tシャツ自体、そういうものですよね。企業がそれを開発しようとするとなかなか本当の自由にはできないけど、コンテンツビジネスとして、なるべく、音楽や映像のプラットフォームのようになっていくといいなと思っています。マイナーコンテンツからメジャーコンテンツまでがいつも揃っていて、アーカイブもいつでも買えるような仕組みにしたいというのが、実は最初の段階での僕の考えでした。

――「ネットフリックス」のように、コンテンツを積み重ねて無限に増やしていく、と。

佐藤:「UT」がスタートした06年や07年は、「iPod」が普及して、カセットテープやMDの頃と比べたら、いきなり1000曲単位で音楽を選べるようになりました。台頭してきた「アマゾン」には、ベストセラーもあれば、そうではない本もたくさんあって、それまでの本屋の品揃えとは全く変わったんです。それが大きな買い方のイノベーションだったんですね。だから、「UT」もそういうものにしたいというのが元々の発想でした。理論上はできるんですが、実際には著作権の問題とか、思っていたより大変だった(笑)。でもユーザーからしてみれば、欲しいときにいつでも検索して買えるようになったら最高じゃないですか?Tシャツ1枚でもプリントできる精度が上がってきているから、技術がもっと進めば、実現できるのかなと思います。

――可士和さんは、“時代に求められていること”を感じられることが多いと思います。今面白いと思うこと、気になることはありますか?

佐藤:例えば、直近で「ユニクロ 前橋南インター店」がオープンしましたが、今新しいのはAIやメタバースじゃないですか。デジタルの世界が拡張していって、今まで想像もつかなかったような世界が広がると思います。デジタルとリアルが対抗軸であるという意味ではありませんが、ただ、だからこそ、逆にリアルな体験の付加価値が高くなるとも思うんです。こうやって会って話すことや、その場でしか体験できないことの方がスペシャルなものになる。リアル店舗でモノを売るだけでは、もうあまり意味がない。

――河村さんが手がけられた「UT」のスケートパークもリアルでしか体験できないことでしたね。

河村:そうですね。この10年で、デジタルで完結することがすごく多くなったと感じます。世界中の買い物がネット上でできるようになった一方で、偶然性は無くなりました。知らないことを知る体験が減ったんですよね。今でも覚えているのが、20代のときに原宿を夜中歩いていると、すごく光っている「ユニクロ」を見つけました。ウインドウ越しに覗くと、流れる赤いLEDの文字と大量のボトル(当初はTシャツをボトルパッケージで販売)が見えて、衝撃を受けたんです。それが07年にできた「UT STORE HARAJUKU.」。後日、気になりお店に行くと、知っているアーティストのTシャツもあるんですけど、知らないアーティストのTシャツもあって、気になってそれを買ったりしました。そのときの体験みたいなものがこの数年、ほとんどない。自分たちの世代はまだ、意識的にそういう体験の仕方をしようとすればできるじゃないですか。でもそれを経験したことのない若い世代の子たちにとっては、未知の体験なわけです。

――若い世代にも新しい体験として、提案するというか。

河村:そうできたらすごくいいですよね。たとえみんなが知らないコンテンツでも、グラフィックを見てかっこいいと思ってもらったり、知ってもらったり。すでに知られていて欲しいと思ってもらえるものと、その両方をバランスよくできたらいいなと思っています。

佐藤:空間を伴った体験は情報量がすごく多いんですよ。匂いや光、その場の空気感とか、それをもっと上手く使えるとは思っています。リアルだってつまらなかったら意味がないけど、そういう意味では、やっぱりデザインの力がすごく重要で、デザインの仕方で感じ方が全く変わってしまうんです。

河村:当時の「UT STORE HARAJUKU.」は、すごく鮮明に覚えていますね。

佐藤:インパクトも違うよね。河村君がそう言ってくれてすごくうれしいんですが、「UT STORE HARAJUKU.」も「ユニクロ原宿店」をリニューアルしたので、ファサードにはLEDを導入したけど、内装はほとんど変えていないんです。全部真っ白に塗っただけ。そこにデザインした什器を並べて、“未来のTシャツコンビニエンスストア”を表現しました。Tシャツをボトルに入れたのは、一つのフォーマットで大量の種類を表現できることはなんだろうと考えて、飲料のペットボトルのデザインからインスピレーションを受けたんです。

――飲料ペットボトルと同じように、ワンフォーマットで表現したのですね。

佐藤:そうです。あとはユニクロ全体のリブランディングが僕のお題だったのですが、当時のユニクロは顧客年齢層が高めになりつつあり、若い人にも刺さるファッション性を取り戻すことが課題でした。それを突然、ベーシックウエアで表現するには無理があるけど、Tシャツ自体がストリートのアイテムだったりするわけです。だから、尖らせても無理が無いなと思ったんですね。「UT」を作ることで、若い人にアプローチできるはず、と。だから当時、河村君が驚いてくれたのは最高ですね。結果が出せた。当時の尖った部分も取り戻しつつ、「UT」のさらなる進化を感じてもらえたらいいですね。

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