愛犬と一緒に過ごせるホテルが急増中だ。連れて行けるだけでなく、トリミングなどのケアが充実していたり、愛犬用メニューを提供するレストランやルーフトップバーだったりと、犬も飼い主も笑顔になれる施設を備えているのだ。“ドッグフレンドリー”を経て、時代は“ドッグファースト”“ドッグラバーフレンドリー”な宿へと進化している。
“犬も許される”ホテルから
犬優先の“ドッグファースト”な宿に
コロナ禍以降、愛犬とともに楽しめるスタイリッシュな宿の需要が高まっている。しかしこの波に便乗して、ただ犬と共に過ごすことを許されるだけのホテルも少なくない。中には、エントランスを犬と一緒に通り抜けできず、専用口からしか入れないホテルもある。せっかくのリゾートなのに、裏口しか許されないとは興ざめだ。
そんな中、東京・浜松町に2月にオープンした「イヌモ芝公園(inumo芝公園)」(東京都港区芝公園1-6-6)は画期的だった。エントランスはもちろん、客室のベッドでも、レストランでも、館内のどこでも愛犬と一緒に過ごせるシティーホテルなのだ。既存のビジネスホテルをリニューアルし、トリミングサロンや広々とした全天候対応型ドッグランなどの設備も充実。犬用のメニューも充実したレストランや、ペット用品ショップ、犬用のフォトスポットまである。宿泊費には、シャンプー&グルーミング代や約76平方メートルのドッグランの使用料も含まれ、さらには平日のサービスとして、写真撮影、愛犬の似顔絵(!)などのアクティビティーも選べる。それゆえ、宿泊客のほぼ100%が犬連れのゲストだ。都心のホテルでありながら、全室大型犬との滞在が可能なのは珍しい。
イヌモ芝公園のマネージャー田中美佐緒さんは、「増上寺などが近いためか、法事など冠婚葬祭のために利用される方が予想外に多かったですね。ホテルではお預かりサービスがあり、滞在中、朝6時から夜11時まで無料で愛犬をお預かりしているので、外出や食事をゆっくり楽しんでいただけます」と語る。品川駅や羽田空港にも近いので、旅行前後の滞在先としてや、東京出張のついでに愛犬との旅を楽しむことも可能だ。
犬との滞在が“許される”のではなく、“犬が喜ぶ”、そして飼い主もうれしいサービスを極めた、“ドッグファースト”なシティーホテル。実際、私の友人は「グルーミング代が込みならば」と、都内在住にもかかわらずリピートしている。犬と一緒に歩くことで、いつもの東京も違う風景に見えるだろう。これからは非日常のリゾートだけでなく、必要な機能を兼ね備えた都市型のドッグフレンドリーホテルの需要が増えていくと私は予測している。
飼い主も思わず笑顔になる
シーサイドリゾートの犬専用施設も
千葉・南房総に2022年12月にオープンした海辺のヴィラ「ダンクー(DANQOO))(千葉県南房総市久枝778-1)は、愛犬のためのシーサイドリゾート。全10室がドッグフレンドリーで、約990平方メートルの広大なドッグランがある。千葉県房総半島の岩井海岸まで歩いてわずか2分という絶好のロケーションで、揺らめく炎に癒される焚火テラスがあり、セルフタイプのドリンクバーも併設する。ワインを楽しみながら、オーナー同士も交流できるという仕組みだ。レストランは全個室なので、誰にも気兼ねすることなく愛犬と食事ができ、専用テラスやドッグランにもなる庭や、ジャグジー付きの客室もあり、別荘感覚で滞在できる。
犬連れの滞在を楽しむための、ホテル主催のイベントも増えてきた。品川・御殿山の「東京マリオットホテル」(東京都品川区北品川4-7-36)では、テラスで桜を眺めながらランチと撮影会を楽しむ「さくらシューティング ウィズ ドッグ(Sakura Shooting with Dog)」を3月に企画。参加費には、テラス席で楽しむお重に入ったお花見弁当のほか、犬専用カメラマンによる撮影イベントも含まれる。犬単独と、家族一緒のポートレート30〜50枚のデータ込みで1万500円(税込)なら、コスパは悪くないだろう。犬を上手に撮影するコツについてのミニトークショーでは質問も飛び交い、イベントは盛り上がった。今回、初めての試みにもかかわらず、リリースと同時にほぼ完売になるほどの人気で、初夏にも「コートヤード・バイ・マリオット白馬」に滞在し、白馬岩岳マウンテンリゾートの山頂を貸し切っての撮影会に参加できるプランを実施予定だ。ゴンドラで山頂まで登り、北アルプスを一望する大パノラマの中で撮影できる。
愛犬家なら犬同伴ではなくても
つい笑顔になるキンプトン新宿東京
さらにはドッグフレンドリーならず、ドッグラバーフレンドリーといえそうなユニークなホテルも登場。「キンプトン新宿東京」(東京都新宿区西新宿3-4-7)は、愛犬やその飼い主はもちろん、犬好きをも笑顔にする空間だ。
各部屋1人1匹までペットを連れていくことができ、部屋によっては11キロ以上の中大型犬との滞在も可能。なんとこの施設、犬だけでなく、エレベーターに乗れるサイズなら、ふくろうやオウム、フェレットなど、さまざまなペットを連れて行ける。過去にはミニピッグを連れてきたゲストもいるそう。うーん、会ってみたい。食器やベッド、トイレシートなどのドッグアメニティーも用意されているので、身軽でもOK。すぐ近くには新宿中央公園もあるので、滞在中の散歩を楽しむのもいい。
宿泊者ではなくても、気軽に利用できるのがこのホテルの魅力。中でも、朝7時から営業しているカフェ「ザ・ジョーンズ カフェ&バー(The Jones Cafe & Bar)」は、にぎやかな新宿にありながらゆったりできるので、私は校正など作業に集中したいときに利用している。さまざまなわんこに囲まれると、なんとも和むからだ。気付くと席の半数以上が犬連れだった(!)こともある。大型犬も、小型犬も、飼い主も、私のような犬好きも、誰もが笑顔になれる都心のホテルだ。
全てのエリアでペットと過ごせるので、2階の「ディストリクト ブラッスリー・バー・ラウンジ」で6月30日まで開催されているプラン「キンプトン オールデイ・シャンパンテラン」も、愛犬と共に参加できる。同プランは、旬の野菜のスプリングプラッターと共に、ペリエ・ジュエの「グラン ブリュット」をフリーフローで味わえるというもの。一人8500円(90分制)で、シーフードの盛り合わせをプラスすると1万1000円だ。2022年12月にオープンしたルーフトップバーもペットフレンドリーで、新宿副都心を一望できるテラスやバーカウンターで愛犬と共に過ごす時間は格別だ。
「キンプトン新宿」は自転車フレンドリーなホテルでもあり、滞在中はレンタル無料。通過点ではなく、“過ごす新宿”を提案している。ここからならば、新宿御苑も神宮外苑も自転車圏内。大都会新宿が意外と緑に恵まれ、人情が残るエリアであることを体感できる。
星野リゾートが進める
愛犬と泊まれる宿への挑戦
全国各地の施設全てを、犬と滞在可能にするべく動いている企業もある。星野リゾートでは、ラグジュアリーな「星のや」から温泉のある「界」、カジュアルな「BEB」まで、国内全ての施設で一部屋はドッグフレンドリーなゲストルームを設けるよう進めており、温泉旅館ブランド「界」では、現在全国21カ所の宿全てに愛犬と滞在できる部屋を設定したという。「界 鬼怒川」や「界 由布院」などには、専用ドッグランがある。半個室のレストランでは、愛犬と共に食事ができるなど、愛犬も大切なゲストの一員として迎えている。
星野リゾート広報担当の森下真千子さんは、「私どもは愛犬家専用の施設や犬向けのメニューなど、ペットのための特別なサービスは考えていませんが、どの『界』にも一緒に過ごせる客室をご用意しているので、『次はどこへ連れていこう』と、わんちゃんとさまざまな地を巡ることを楽しんでほしいですね」と語る。その結果、「星野リゾートの施設なら愛犬と一緒に滞在できる」という情報が徐々に浸透し、各施設を巡るリピーターが増えたという。「界」は栃木県の日光、鬼怒川、川治や、島根県の玉造、出雲など、近距離に特色のある施設も多い。愛犬とのドライブを楽しみながら、各施設を巡る旅も人気だ。滞在先の街や空間そのものを楽しみたい層には、いつものように過ごせる環境こそが重要なのだ。常にゲストに寄り添う存在になることで、同じような境遇や、価値観を持つリピーター獲得へとつながっていくだろう。
ドッグフレンドリーホテルは、愛犬を喜ばせることを第一に考えた施設やサービス、そして同じ立場で過ごせる犬好き全てが和める空間へと、日々進化している。