三越伊勢丹の伊勢丹新宿本店は、2023年3月期の総額売上高(小売業の売上高に相当)が前期比29.2%増の3276億円だった。コロナ禍以前の19年3月期の売上高(2888億円)を400億円近く上回り、1991年度に記録した年間の売上高記録(約3000億円)も更新した。
伊勢丹新宿本店の年間客数は19年3月期と比較すると「8割程度の水準にとどまる」(細谷敏幸社長)。その分、1客当たりの売り上げを大きく伸ばしたことが最高業績につながった。背景には同社の細谷社長が主導してきた“個客化”戦略がある。
識別顧客のうち「100万円以上購入」が半数
21年4月に就任した細谷社長は、顧客の「識別化」(カード会員やデジタル会員、外商顧客にすること)と、識別顧客に対する「高感度上質」な商品・サービスの拡充を両輪で進めてきた。「三越伊勢丹アプリ」の会員数は22年3月期に前期比2.1倍となり、200万人を突破した。識別顧客の最上に位置付けられる外商顧客に対しては、MDと外商セールスが連携してニーズを深堀りし、百貨店で扱っていない商品も取り寄せるようにした。23年3月期の百貨店外MD(通常は百貨店で扱っていない商品の取り寄せ)は前期比2.5倍に増えた。
これらの個客化戦略の先行モデルとなったのが、三越伊勢丹の両本店(伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店)だ。23年3月期の両本店の売上高の内訳を見ると、識別顧客による購買シェアが20年3月期の50%から約70%まで上昇した。また、識別顧客の約半数が年間100万円以上購入している。
売上高3500億円の先に「楽しみな数字」
伊勢丹新宿本店では今期中にラグジュアリーブランドや宝飾・時計ゾーンの拡大、上顧客向けラウンジの拡充を計画。25年3月期に単店で売上高3500億円を目指す。好調はコロナ禍からのリバウンド消費とも捉えられるが、細谷社長は成長フェーズは今後も続くと見る。「まだ戻りきっていないインバウンドへの期待値があるだけでなく、伊勢丹新宿本店をグローバルに発信できれば、世界中のお客さまにご来店いただけるようになる。その先にはもっと楽しみな(売上高の)数字が期待できるはずだ」。