福岡の太宰府天満宮は5月から、124年ぶりに重要文化財である御本殿の大改修を行う。改修は約3年の予定で、期間中に参拝者を迎える仮殿がこのほど完成し、明日5月13日に仮殿遷座祭が行われる。仮殿のデザイン・設計は建築家の藤本壮介が担い、仮殿に納められた御帳と几帳(みとばり、きちょう、どちらも布製の空間の間仕切り)を、黒河内真衣子によるファッションブランド「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI以下、マメ)」が手掛けた。
「マメ」といえば、日本各地の職人と取り組んだ、繊細な織りや染めによる詩的なクリエーションが強み。御帳、几帳も、「現代の織機を用いながら、古代染色などの手法を融合させ、令和の今でしか織り上げられない生地」(発表資料から)に仕上げている。「図案や素材には天満宮を象徴する梅のモチーフのほか、(太宰府天満宮の宮司である)西高辻家の記憶を込めた」「天満宮全体を包む生命の景色を描きたいと思った」と黒河内はコメントしている。
御帳は、梅の木のモチーフを全面にあしらったデザイン。左右に向かって色柄がグラデーションを構成し、「生命の広がりを表現」する。几帳に用いたシルクには、境内で採取した梅やクスノキの枝、古来から高貴な紫色の染料とされてきた紫根を使った古代染色を施し、現代的な化学繊維と合わせて織り上げている。流れるような糸の飛ばし模様は、黒河内自身が境内にあるクスノキの根元の穴の中で雨宿りをしながら見た「降り注ぐ生命の雨」をイメージしたものだという。
“学問の神さま”としてのイメージが強い天満宮だが、祭神である菅原道真が漢詩や和歌に通じていたことから、文化芸術の発信にも注力している。太宰府天満宮では境内の各所で、現代アートの常設展示を実施。「マメ」とも、「アートの取り組みを通して縁をいただいた」と、西高辻信宏 太宰府天満宮第40代宮司はコメント。「(藤本、黒河内という)現代のすばらしい才能が集結し、進取の精神をもって時代の最先端を歩んだ天神さまの住まいにふさわしい仮殿が完成した」と続ける。