切迫した店舗の人繰りは多くのファッション企業にとって“今そこにある危機”である。ここではファッション企業の人事・採用の担当者に集まってもらい、匿名を条件に本音で語り合ってもらった。登場人物は全て仮名。(この記事は「WWDJAPAN」5月15日号からの抜粋です)
WWDJAPAN(以下、WWD):店舗の販売員は不足していますか?
松川泰典(以下、松川):行動制限が解除され、人流が戻ってきてから明らかに足りなくなっています。うちの場合、東京など関東圏が厳しい。長くこの仕事をしてきたけれど、これほど深刻な状況は経験ありません。コロナ下で入店客数が減ったため、店舗を少人数の販売員で運営する体制にしているのに、それでも足りないほどです。
竹岩耕太郎(以下、竹岩):当社も同じです。コロナ下で採用を見送っていたため、ベースが少ないところに急速に客足が戻ってきました。急いで求人活動を強化しても、なかなか追いつきません。特に新卒採用が難しい。コロナ下の店舗休業や消費低迷を見て、学生はアパレル業界の先行きに不安を感じています。以前も厳しいといわれた時代はあったけれど、それでも「この人はブランドに合っているな」「コミュニケーション力が高そうだな」とか会社側が選ぶ余裕がありました。今はそんなぜいたくも言っていられない状況です。
店舗運営は常に綱渡り
梅木彰(以下、梅木):当社の場合、充足度は8割くらい。人数で販売員の大半を占めるアルバイトは東京や大阪の大都市は足りている半面、北海道、東北、北陸などの地方都市は苦労しています。また量(人員)は満たせても質に課題があります。ファッションの店舗で働きたいという人は、アルバイトであってもホスピタリティーの意識が高くて、安心して現場を任せることができました。でも、最近は(コロナ下で)憧れるような接客を受けたことがないという若い人も珍しくない。現場教育も含めて店長の負担が大きくなっています。
WWD:コロナ下で既存の販売員の離職も増えた?
梅木:業界の先行きを心配する若手社員が増えたのは間違いありません。残念ながら当社も店長あるいは副店長クラスの退職が続きました。その補填が追いついていません。当社は新卒よりもアルバイトから社員に登用することが多い。アルバイトとして適性と実力が評価され、社員へと登用され、副店長、店長へと昇格する。社員登用から3年くらい、年齢でいえば24、25歳で店長になるケースが多く、彼ら彼女らの活躍で当社は成長してきました。途中で辞められてしまうのは大変な痛手です。
ウイークリーマンションを借りる
WWD:店舗を少ない人数で回せば、いろいろとひずみが出るのでは?
松川:シフトを組めない店舗も出ています。最近はSV(スーパーバイザー)がサポートに駆り出されることが常態化しました。今日はこの店の遅番で入って、明日は隣の駅の店で早番に入る。本来SVの仕事はエリアの複数の店舗のマネジメントです。それが店頭販売の戦力になってしまっている。SVだけではなく、本社の事業部の社員が販売応援に駆り出されるケースも珍しくありません。初売りやクリアランスセールを手伝うケースはよくあったけど、最近はかき入れどきでもない平日にシフトの穴を埋めるために派遣せざるをえなくなりました。
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