ファッション

「ミラ・ショーン」と幾左田千佳 時代を切り開く女性による新ライン立ち上げの理由

伊藤忠商事がオーナーを務めるイタリア発ブランド「ミラ・ショーン(MILA SCHON)」の改革が進んでいる。伊藤忠は今年、グイド・フェンディ(Guido Fendi)が出資するコフェド(COFED)とマスターライセンス契約を締結。同ブランドの新クリエイティブ・ディレクターに、「エルメス」「プラダ」などで経験を積んだマーク・オディべ(Marc Audibet)を迎え、2月にミラノ・ファッション・ウイークでコレクションを披露した。新体制でのミッションの一つが、アジア全域での販売拡大だ。現在約2億ユーロ(約294億円)の売上高を、3年後には倍増させる計画だ。

そんな「ミラ・ショーン」の改革は、日本でも進んでいる。3月には伊藤忠の子会社コロネット主導のもと、「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」の幾左田千佳デザイナーをクリエイティブ・ディレクターに迎えたウィメンズの新ライン“ミラ ショーン バイ チカ キサダ(MILA SCHON BY CHIKA KISADA)”を始動。21型のアイテムを発表した。価格帯はアウター6万9300〜15万4000円(税込、以下同)、トップス2万7500〜4万9500円、パンツ4万9500〜5万3900円、ドレス6万4900〜13万2000円。

現在はコロネット公式オンラインストアで販売するほか、5月31日〜6月6日には伊勢丹新宿本店でのポップアップも予定している。同ラインを立ち上げた狙いとは。また、幾左田デザイナーは創業者マダム・ミラ・ショーンが描いた女性像を、どう解釈しているのか。七宮信幸コロネット社長と幾左田デザイナーに聞いた。

「幾左田さんしかいなかった」

WWDJAPAN(以下、WWD):“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”はどのような経緯で立ち上げた?

七宮信幸コロネット社長(以下、七宮):構想がスタートしたのは2021年末ごろ。きっかけの一つは、私自身がコロネットの抱えるブランドと日本人デザイナーの接点を作りたいと考えていたから。われわれの主な事業は、海外からブランドを日本に持ってきて販売する、インポーターとしての役割が多い。でも、私が若いころからお世話になっていた日本のファッション業界やデザイナーと一緒になって、業界を盛り上げていきたいという思いはずっと持っていた。そこで、コロネットで最も長く取り扱っている「ミラ・ショーン」と日本デザイナーの接点を探してみようと考えたのが始まりだった。

WWD:幾左田デザイナーを選んだ理由は?

七宮:新ラインでは、ブランドの既存顧客や新規顧客に対して、「ミラ・ショーン」の新しい切り口を伝えたい。これはある意味とてもチャレンジングな目標なので、賛同してくれるのは、軸がぶれず強いパッションを持っている幾左田さんしかいなかった。ブランドやマダム・ミラ・ショーンへの造詣も深く、それを小説のような表現で語る姿を見て、確信した。あとは、お酒が好きなところ。

幾左田千佳“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”クリエイティブ・ディレクター(以下、幾左田):そこですか(笑)。早い段階で話をいただいて実際に七宮社長にお会いすると、とても気さくでフランクに接してくれた。私はそういったコミュニケーションがビジネスやデザインのインスピレーションにつながるタイプ。だからこの仕事は、七宮社長のキャラクターがあってこそ。ただ“社長”と呼ぶと怒られるので、七宮さんと呼んでいるけれど(笑)。

「マダムの人間性に魅力を感じた」

WWD:コロネットからの依頼を受けた決め手は?

幾左田:「チカ キサダ」を10年近く続けていると、ありがたいことにいろいろなお話をいただく。その中で、自分の心が向くものに取り組みたいというのが私の基準。引き受けるにあたり一番の決め手となったのは、マダム・ミラ・ショーンの魅力的なキャラクターだ。そして、イタリア発のブランドというのも大きかった。「チカ キサダ」が2019年春夏シーズンに初めて海外でショーを披露したのもミラノだったし、私のクリエイションの源泉であるバレエが誕生したのもイタリア。自分のこれまでの経験が結びつくような期待感を持てた。

WWD:創業者ミラ・ショーンのどのような側面に魅力を感じた?

幾左田:まず、女性の活躍が簡単ではなかった時代に、エネルギッシュにファッションに挑んでいたこと。私自身もデザイナーとして時代を切り開いていきたいという思いがあるので、目指したい女性像でもあるし、共感できる部分も多く、その人間性に魅力を感じた。それに、女性視点での美意識もとても美しい。ファッションは、時代ごとに異なるデザイン要素があるけれど、女性視点での美意識には共通した感覚がある。私はバレエをインスピレーション源にしているので、女性の体とは常に向き合っている。マダム・ミラ・ショーンのクリエイションからも、例えば体のラインを考えた曲線やスカート丈、オーバーサイズのコートなど、同じ感覚を感じた。だから“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”でも、女性ならではの視点や強みを大事にしている。

WWD:コロネット側からリクエストしたことは?

七宮:「ミラ・ショーン」の膨大なアーカイブをお渡しし、幾左田さんのフィルターを通して現代的に表現してほしいと伝えた。本当にそれぐらいで、あとは自由にやってほしいと。というのも、幾左田さんが思い描くものが、私たちが考えているターゲットにも合うという感触があったから。ターゲットは年齢ではなく、家庭でも仕事でも、自分のスタイルを持っている気品のある女性。幾左田さんの根底にあるバレエには、背筋が伸びる気品がある。そんな部分が、マダム・ミラ・ショーンの思いにも通じると確信しているので、こちらからリクエストすることは何もなかった。

WWD:歴史あるブランドなだけに、重圧はなかった?

幾左田:楽しかった。プレッシャーを感じられるのは、デザイナーにとってエキサイティングなこと。苦しかったりつらかったりすることもあるけれど、結果的にそれが次のクリエイションにつながっていく。だからプレッシャーを感じる機会を与えてもらえるのは、作り手にとって幸せだと考えている。

新ラインに込めた“余韻”と大きな夢

WWD:新ラインで特にこだわった点は?

幾左田:「チカ キサダ」がクラシックバレエなら、“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”はコンテンポラリーダンスのイメージ。ダンスはダンスでも、全く異なるものをイメージしながら、どんどん肉付けしていった。“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”では自立した女性像を表現するために、仕事からプライベートまで、女性の1日に寄り添うデザインを大切にしている。具体的には、素材やリラックスできるパターン、足し算や引き算のバランスを考え、人が動くことで余韻が残るシルエットにこだわった。

WWD:余韻が残るシルエットというと?

幾左田:「ミラ・ショーン」は、風が吹いたり、少し走ったり、日常生活で生じる動きにもエレガンスを感じさせるのが強み。ちょっとした所作からも着る人のキャラクターが前面に出て、影のように寄り添えるデザインや、パターンワーク、カラーパレットを追求している。そうすることで「あの人、何だか素敵」という余韻が残ると信じているので。

WWD:「ミラ・ショーン」本体の改革が進む中で、新ラインの役割は?

七宮:「ミラ・ショーン」にはマーク・オディべ=クリエイティブ・ディレクターを迎え、コロネットが手掛けるライン“ミラ・ショーン ミラノ”も2023-24年秋冬にデザインチームを刷新した。50〜70代中心の既存顧客や、新規顧客にも新鮮な「ミラ・ショーン」を感じてもらいたい。そこに幾左田さんのラインが加わることで、多方面に動きを起こせるはずだ。コロネットの強みは、インキュベーションする機能があること。ニッチなブランドを中・長期的に成長させていくプラットフォームを、幾左田さんと一緒に作っていきたい。

WWD:販路の想定は?

七宮:まずは渋谷で行ったようなポップアップを繰り返しつつ、百貨店や専門店、セレクトショップとも取り組んでいきたい。今は日本のみの販売だが、将来的にはアジアにも発信していきたい。

幾左田:七宮さんがおっしゃるように、販路を徐々に広げて多くの人に知ってほしい。国外での展開もチャンスがあれば挑戦したい。「チカ キサダ」では、パリのオペラ座とコラボレーションするという夢がある。だから“ミラ ショーン バイ チカ キサダ”では、ミラノのスカラ座とコラボレーションできるように、大きな目標をもって楽しんでやっていきたい。

七宮:幾左田さんは、昨年はクラシックバレエの公演「バレエ ザニュークラシック(BALLET TheNewClassic)」の衣装を手掛けたり、3月には6年ぶりに東京で「チカ キサダ」のショーを披露したりと、さらに注目を浴びつつある。彼女のクリエイティビティや、自立した女性を支えるファッションは、日本のみならず海外にもどんどん広がってほしい。

■“ミラ ショーン バイ チカ キサダ” ポップアップショップ
日程:5月31日〜6月6日
場所:伊勢丹新宿店 本館3階ステージ #3
住所:東京都新宿区新宿3-14-1

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