2023年度インターナショナル・ウールマーク・プライズ(INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE以下、IWP)の最終選考会が5月15日にパリのプティ・パレで開かれ、受賞者が発表された。「ルード(RHUDE)」や「ブルーマーブル(BLUEMARBLE)」などを含む8組のファイナリストの中からグランプリに輝いたのは、ナイジェリアを拠点に18年に設立され、現地のヨルバ族の伝統とクィアのアイデンティティーに根ざしたジェンダーレスなデザインでアフリカファッションのイメージを変えることに挑む「ラゴス スペース プログラム(LAGOS SPACE PROGRAMME)」。創業デザイナーのアデジュ・トンプソン(Adeju Thompson)には、賞金20万豪ドル(約1820万円)に加え、ビジネス関連のメンターシップやIWPのリテールパートナーである小売店で販売する機会が与えられた。
21年度「LVMHプライズ(LVMH PRIZE)」のセミファイナリストでもあり、山本耀司や川久保玲から影響を受けたというトンプソンは、ナイジェリア南西部で作られる藍染めの布“アディレ”を裏地に用いたテーラードアイテムやヨルバ族の装いからヒントを得たシグネチャーのワイドパンツなどを披露。「文化を保護したり称えたりするという考えに重きを置きつつ、私の作品にはアクティビズムの要素があることも伝えたかった。ナイジェリア出身のクィアとして、自分のアイデンティティーを伝えることはとても重要だ。その一方で、アフリカのデザインに対する誤解も解きたい。私はグローバルなデザイナーなので、ナイジェリア人のアイデンティティーを取り入れつつも、それによって定義されたくはない。どのような文脈においても優れたデザインで第一に評価されるような服を作りたい」と話した。
また、自国には欧米のようにデザイナーが受けられるスポンサーシップや助成金がないため、今回の受賞は特に意義深いものだとし、「(ナイジェリアでは)政治腐敗の蔓延などによって、国の宝となったかもしれない多くの人々が忘れ去られてしまった。私のブランドは、さまざまな人々の声を拾い上げて拡大するとともに経済的にサポートしていく。だから、これは彼らのための勝利でもある」とコメント。賞金は生産キャパシティーを高めるためのインフラ整備に投資する予定で、「ナイジェリアでの活動は電力の供給環境が非常に悪く、国の送電網に依存しなくていいようにソーラーパネルを設置することをビジネスパートナーと話し合ってきた。今、私のスタジオには発電機があるが、そのために毎週多くの資金を費やしている。ソーラーパネルは明らかに大きな投資にはなるが、長い目で見ると大きな節約につながるだろう」と述べた。
一方、故カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)を称えて20年に創設されたイノベーション部門のカール・ラガーフェルド賞は、19年にアマリー・ローエ・ホーベ(Amalie Roege Hove)が立ち上げたデンマークのコンセプチュアルなニットウエアブランド「エ ローエ ホーべ(A. ROEGE HOVE)」が受賞。獲得した賞金10万豪ドル(約910万円)は、アトリエの新しい機械や糸の開発などに投資する予定だという。
同コンテストでそれぞれのファイナリストに課されたのは、23-24年秋冬コレクションの一部または単独のカプセルコレクションとして、メリノウールを使って「素材本来の汎用性、革新性、エコロジーを強調した」6ルックをデザインすること。今年度の審査員には、ピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)「アライア(ALAIA)」クリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・サルトリ(Alessandro Sartori)「ゼニア(ZEGNA)」アーティスティック・ディレクター、フランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)「マルニ(MARNI)」クリエイティブ・ディレクター、エリザベス・フォン・デア・ゴルツ(Elizabeth von der Goltz)=ブラウンズ(BROWNS)最高経営責任者兼ファーフェッチ(FARFETCH)チーフ・ファッション&マーチャンダイジング・オフィサー、カリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)「CRファッションブック(CR FASHION BOOK)」創設者兼編集長、写真家のタイラー・ミッチェル(Tyler Mitchell)らが名を連ねた。