モノが素晴らしくても、「届ける」にまで思いを馳せないと売れない時代。「マクアケ(MAKUAKE)」で多数の応援購入という形で支持されるプロジェクトは、モノづくりからコミュニケーションに至るまでの設計の何が違うのか?この連載では、モノづくり企業に伴走するキュレーターが成功体験を伝授。時にモノづくり企業が苦手とする、訴求ポイントの整理からターゲットの設定、トップ画像やキャッチコピーに至るまでのコミュニケーション上の工夫を伝授してもらう。今回は、リップケース型のネーム印「リピン」が大成功した、シヤチハタの話。
シヤチハタは、“しるしの価値”を提供し続けることをミッションに掲げる老舗の印章関連用品・文房具のメーカですー。1925年の創業から約1世紀、社会の変化が加速してユーザーのライフスタイルや好み、感性が多様化する中でも、新たな“しるしの価値”を模索して数々のユニークな商品を手掛けてきました。今回、シヤチハタは新たに使うたび、目にするたびに気分が上がるリップケース型のネーム印「リピン(LIPIN)」を開発。「マクアケ」でプロジェクトを実施しました。
訴求ポイントの整理
今回の商品開発において、シヤチハタが最もこだわったのは「見た目」です。同社は印章関連用品・文房具を中心に手掛けていることから“事務用品の会社”というイメージを持たれてしまいがち。この商品は、そうしたイメージを「圧倒的に可愛い商品で変えたい」という女性社員の想いがきっかけで生まれました。
「リピン」は実際に口紅で使用されるピンクゴールド調の容器に繰り出し式のネーム印を装着したリップケース型の商品です。口紅を出すようにスティックを回すと、美しい色をまとった印面が出てきて、まるで本物のリップを使っているような感覚が味わえます。色に関しても、実際のリップにも使用されるようなイエローベース・ブルーベースを意識した3色展開。シヤチハタのインキ配合技術を総動員して、今回新しく開発するほどこだわりました。
シヤチハタとしてはこれまでにない“コスメ”に振り切ったネーム印となりましたが、「マクアケ」でプロジェクトを開始したところ、瞬く間に話題に。最終的に2477人のサポーターから累計1100万円以上の応援購入が集まりました。サポーターからは、「こんな可愛いハンコが欲しかった!」「一目惚れしました」といった応援コメントが多数寄せられました。今回の成功体験をきっかけに、同社は「リピン」の一般販売も視野に入れ、商品展開を検討していくそうです。
実行者の想いとユーザー分析
開発のきっかけは「会社のイメージを変えたい」という女性社員・髙末迪予(たかすえ・みちよ)さんの想いにありました。「これまでの商品も可愛いのに、なかなか知られず。“事務用品のシヤチハタ”のイメージを覆し、自分も心から『ほしい』と思える、可愛くておしゃれな商品を作りたい」という想いを打ち合わせ時にお話し頂きました。そこでデジタル化が進む中ですが、あえて手間をかけて自分のしるしを持つことを楽しめるような「圧倒的可愛さ」を追求することになりました。
開発にあたり、まずは「リピン」に関して「どういう人が、どんな時に一番価値を感じるか」について、両社で話し合ってユーザー分析を進めていきました。具体的には髙末さんと同じく、可愛いものやコスメが好き・30代・オフィス勤務の女性を想定ユーザーに設定。ユーザーには「可愛いものに囲まれて、仕事中の気分を上げたい」「自分の個性やセンスをさりげなく表現したい」といった深層心理があるのでは、という仮説を立てました。
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