政治の場において「何を着るか」は大切な外交ツール。5月19日から21日まで開催されたG7広島サミットは各国要人のファッションも見どころの一つだった。英国のリシ・スナク首相は、岸田文雄首相との会食の席で広島東洋カープのロゴ刺繍入りの真っ赤なソックスを見せる気づかいで場を盛り上げ、岸田首相の裕子夫人は福山市の備後デニムで仕立てたスーツを披露し日本の産地の力をアピールし、19日におりづるタワーで開催された次世代シンポジウム第2部では日本の新進ブランド「CFCL」による再生ポリエステル使いのブルーのドレスを着用した。
華やかさ、という意味で最も目立っていたのは、英国スナク首相の妻アクシャタ・ルムティ(Akshata Narayan Murty)氏だろう。インドの大富豪の娘で自身の総資産も数千億円と噂される彼女は、2022年に夫であるスナク氏が現職に就任しファーストレディとなった。ファッションブランドの経営経験もあるなどファッションとそのマーケティングに精通しており、着こなし方がハイセンスなことで知られる。G7でも日本到着、広島到着など、シーンごとに着替え、ファッションを存分に楽しんでいることがうかがえた。
ルムティ氏がラグジュアリーブランドの上顧客であることは間違いないが、最近はカジュアルな英国ブランドを選択して夫の仕事を戦略的にサポートしている。日本到着時は青空を背景に英国の「チンティ・アンド・パーカー(CHINTI&PARKER)」の鮮やかなピンクのカシミアセーターと、英国「エムイーアンドイーエム (ME+EM)」のグリーンのパンツで姿を見せ、アジア系初・英国史上最年少で現職に就任したスナク首相の若々しいリーダーシップを印象づけた。
イタリア初の女性首相の巧みな色選び
もうひとり、「ファッションと外交」という点で注目したいのがイタリアのジョルジャ・メローニ(Giorgia Meloni)首相だ。日本ほどではないがイタリアはまだまだ男性社会。「ジェンダー・ギャップ指数2022」は63位と、EUの中では下位に位置づけられている。そのイタリアでガラスの天井を破り、同国初の女性首相というポジションを獲得したメローニ首相は、ファッションの扱いも実に巧みだ。2022年の総選挙中は、ピンクやグリーンなどキャンディーカラーのジャケットで男性候補者の間で目立ちまくり、当選後の公務ではシックなネイビージャケットを選択し、ダークスーツが多い場に馴染んでいる。
公式には発表されていないが、ネイビーの服の多くが「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」と推察される。堂々とした自分を演出し、内心適度にリラックスする必要がある勝負の場で「ジョルジオ アルマーニ」がベストな選択であることは間違いない。それだけではなく、男性議員の多くが着用しているであろうイタリアの王道ブランドを選ぶことで場での「一体感」を演出できる。リーダーとして賢い選択だ。
G7でのメローニ首相は、このネイビーを多用しつつ、要所ではパステルピンクやホワイトの服を選んでいた。同じピンクでも選挙戦時とは異なり、淡く優しいパステルトーンである点がポイントだ。他国の大統領・首相が紺やグレーのスーツである中、悪目立ちすることなく同時にしっかり存在感を主張することに成功している。
彼女個人の好みをのぞかせるのは、ストレートヘアの間で揺れるジュエリーと記念撮影時に着用していたハイ&ピンヒールのシューズだ。細く鋭いピンヒールは、同首相のこだわりなようで、昨年執り行われたイタリア新政府の宣誓式では、低く見積もって7.5センチのピンヒールで堂々と登場した。ただし、G7の平和記念公園ではメンズライクなフラットシューズを選択。靴の国、イタリアを代表する者としてTPOをわきまえたきめ細やかな配慮を見せていた。