「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション(FLOCCI NAUCINIHILIPILIFICATION)」。一度耳にしただけでは、思わず聞き返してしまう。そんな「長すぎる」店名の古着店が東京・下北沢にある。
オーナーの吉村駿介さんは学生の頃から古着が好きで、アパレルで働いた経験はないまま6年前に店を立ち上げた。「右も左も分からなかったけれど、とりあえず店名にインパクトがあれば、興味本位のお客さんが来てくれるんじゃないかと思ったんです」。
「フロクシノーシナイヒリピリフィケーション(以下、フロクシ)」の店内は、下北沢駅周辺に立ち並ぶカジュアル・低価格な古着店とは一味違う、緊張感のあるムード。こぢんまりとはしているが、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS」「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」「ヨウジ ヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」などの1970〜80年代のアーカイブや、今まで目にしたことのないDCブランド、ノーブランドのヨーロッパ古着などが入り混じる、捉えどころのないラインアップが面白い。店のコンセプトは、吉村さんが好きな服を集めた「第二のクローゼット」。オープンした当初は「ストーン アイランド(STONE ISLAND)」などのテック系ウエアの古着を中心に集めていたが、次第にセットアップなどのテーラードアイテムも買い付けるように。「いつも自分がその時に着たい服を並べているので、ラインアップは常に変化します。悪く言えばごちゃごちゃしているだけ(笑)」。
“分かりやすい”古着は置かない
自分の言葉でストーリーを伝えられるものを
商品を手にとると、どれもデザインやディテールに一クセ、二クセあるものばかり。裾のリブが巨大化して見頃の半分を覆う「ダーク ビッケンバーグ(DIRK BIKKEMBERGS)」のブルゾン、かつてジュンが展開していたDCブランド「ドモン(DOMON)」のトップス、派手な赤や青で目がチカチカするようなレーシングウエア。ガーメントダイのピンクカラーが主役級の存在感を放つ「イッセイミヤケ」のコートは、フランスの市場で一目惚れして買い付けてきたものだ。「紫外線が強いヨーロッパだから、独特の白っちゃけ方をしている。どんな持ち主がいて、どんな経緯で古着市場に出てきたんだろう、と思いを馳せてしまう」と吉村さん。
一方、「リーバイス(LEVI’S)」のビンテージジーンズのような、多くの古着店で置いてあるような“定番”は見当たらない。吉村さんは「タグとか年代で判断されるような『分かりやすい古着』は買い付けないようにしている」と話す。「誰かが決めた価値観じゃなくて、自分の琴線に触れるかどうかの方が大事。『なぜ面白いのか』を自分の言葉で伝えたいんです」。
長く覚えづらい店名は、英字辞書で引くと“無価値”という意味がある。「ファッションの世界では新しいシーズンのたびに商品の価値が目減りしていく。古着はそういう意味では役目を終えた、『無価値な』もの」と吉村さん。「ただ古着屋のストーリーの伝え方次第で、その価値はいくらでも高められると思っていて。お客さまが現代アートを買うような感覚でお買い物できる、そんな直感に響く古着を集めていきたいです」。