「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」の2023-24年秋冬展示会に行ってきました。久々に展示会を訪ねて驚いたことが、家具類が展示会場で結構目立っていたこと。と言っても、特にコロナ禍のステイホームで家具に注力したといったことでもないそうで、ブランドをよく知る方からしたら「今さら何を当たり前のことを言っているの?」と怒られそうです。確かにカフェも併設する神南の直営店は、家具や器、ガラス製品なども置いてあって、ブランドとして生活丸ごとを提案していることを思い出しました。
家具の中でも特に今季の注目ニュースが、バウハウスの流れも汲む英国の合板家具メーカー、アイソコン(ISOKON)が1936年に発表した“ネストテーブル”をマーガレットがアイソコンと組んで復刻し、今秋から日本の店舗でも販売するというもの。入れ子構造になった小テーブルで、各12万1000円。天板裏にはアイソコンと「マーガレット・ハウエル」両方の刻印が入っています。
マーガレットと家具の話で言えば、ブランドファンや家具好きの方にはアーコール(ERCOL)のスタッキングチェアの話がよく知られています。アーコールも英国の老舗家具メーカーで、家庭用や学校用のイスを作っており、マーガレットの生家でもキッチンでアーコールのイスを使っていたんだとか。マーガレットが大人になって家を出る際、このイスを持って出たというエピソードは、2021年5月に東京・代官山や京都で行われたブランド設立50周年の展覧会でも紹介されており、使い込まれた実物のイスも展示していました。
そのアーコールのスタッキングチェアも、長年生産されなくなっていたものをマーガレットが復刻にこぎつけたというエピソードがあり、「マーガレット・ハウエル」の一部店舗でも扱っています。イス以外では、マーガレット自身も使っていたという英国の老舗照明メーカー、アングルポイズ(ANGLEPOISE)のデスクランプを色別注していたり、大阪のガラス工房、フレスコ(fresco)にグラスを別注していたり。こうしたラインアップからも、マーガレットが“用の美”として、暮らしの中で使えるものに飾らない美しさや価値を見出す人であることを強く感じます。
“用の美”を実践
広報担当者によると、マーガレットは常々、「私たちが作っているのはファッションブランドではなく、クロージングブランドだ」ということを口にするそうです。ここでいうファッションブランドとは、半年ごとにトレンドを追い掛けて、次々新しいものを出していく、といったイメージです。そういうものではなく、暮らしに根付いた服をわれわれは作っているんだという意思がマーガレットの言葉にはこもっています。実際、「マーガレット・ハウエル」の服って、一目で「これはいついつのシーズンだな」と分かるようなデザインはなく、長く着られる上質な素材を使い、シンプルなデザインを襟やポケット口の大きさ、丈、シルエットの微細な変化でモダンな感覚にしています。
もう一つ、「マーガレット・ハウエル」は地に足が着いたブランドだなと感じたポイントが、17年から続けている「ミズノ(MIZUNO)」とのコラボレーションです。話題性先行と思ってしまうようなコラボも頻繁に発表される昨今ですが、「マーガレット・ハウエル」と「ミズノ」は、元々マーガレットが日常生活の中で水泳をしていたことから取り組みが始まったんだそう。
先ほど“用の美”という民藝運動の言葉でマーガレットの美意識を語りましたが、マーガレットは実際、TSIと仕事をするようになって以降、日本各地を訪ねて民芸品も集めているんだそう。これも前述の50周年の展覧会で知ったことです。英国のアーツアンドクラフツと日本の民藝運動は似ているようで違う部分も多いですが、それでもやはり、華美よりも質実剛健な機能的な美を好むといったベースの美意識の部分で、共感する部分が多いのかなと思ったりします。だからこそ日本人も「マーガレット・ハウエル」が好きなんでしょうね。