ファッション

松屋銀座の「巨大な外壁広告」について聞いてみた

道ゆく人の目を奪う松屋銀座本店の外壁広告は、今や銀座の名物といえるだろう。超一等地にある同店のファサードをキャンパスに見立てて、ユニークで迫力満点の広告が掲示される。夜には照明の演出まで施される。日本最大級の屋外広告はいつから始まり、どのような企業が広告を出してきたのか。いつ張り替えているのか。そして広告料金はいくらなのか。松屋に聞いてみた。

始まりは2007年11月にさかのぼる。「ルイ・ヴィトン」のアートイベントの企画として、アーティストの村上隆氏によるカラフルなモノグラムが外壁に散りばめられた。松屋のビルの立方体の二面、つまり中央通り側の幅120m×高さ22mと、松屋通り側の幅30m×高さ22mを使い、建物全体を「ルイ・ヴィトン」のトランクに見立てたのだ。夜になると、イルミネーションによってモノグラムが一層きらびやかに浮かび上がった。

スケールの大きな仕掛けは話題を呼んだ。松屋には「外壁に広告を出したい」という連絡や問い合わせが殺到した。

「もともと外壁を広告として売り出すつもりはありませんでした。しかし、あまりに問い合わせが多いため、事業化することにしたのです」。現在、外壁広告を担当する共創事業本部の柴田亨一郎さんは振り返る。

ガラス張りの現代的なビルに見える松屋銀座だが、建物の半分(三越寄り)は1925年竣工でもうすぐ百年を迎える。終戦後しばらく間、進駐軍のPX(軍隊関係者ための店舗)として接収されていた歴史もある。64年に京橋寄りに増築されて現在の面積になった。2006年9月には外壁のガラス工事が完成し、LEDによってさまざまな色の照明演出が可能になる。

当初、松屋は季節やイベントに応じたライトアップを想定していたが、「ルイ・ヴィトン」の巨大トランクによって、外壁の広告価値が発見されたのだった。

銀座にはショッピングや食事でハレの気分を楽しむ人が全国各地から集まる。さらに2010年代以降は外国人の観光客が急増した。国内外から集まる人々の目に、計1000坪(サッカーコートの半分に近い)の巨大広告を焼き付けるメリットは大きい。数週間の単位で販売されている外壁広告は、すでに年始まで埋まっている。

広告本数の最多ブランドはどこか?

07年から現在までの16年間で65回の外壁広告が掲示された。最も多いのは、きっかけを作った「ルイ・ヴィトン」の16回。次いで「シャネル」の11回。この2ブランドがコンスタントに外壁を飾っている。

「ルイ・ヴィトン」は松屋銀座の京橋寄りに3フロアの旗艦店がある。外壁広告まで出ると、松屋が丸ごと「ルイ・ヴィトン」のテイストに染まったように見えてインパクトがある。一方、「シャネル」は松屋の店内には化粧品しか入っていない。中央通りを挟んで向かい側に「シャネル」の旗艦店がある。

「広告は時代を映す鏡。ラグジュアリーブランドが多いのは、その勢いを反映したものといえるでしょう」と柴田さんは言う。ラグジュアリーブランドの本社の経営者にも松屋の外壁広告は知られており、ブランディングの有効手段として選ばれるようになった。

「ルイ・ヴィトン」によるモノグラムや草間彌生氏とのコラボキャンペーン、「ティファニー」のブルーを使った全館ライトアップ、スポーツクライングの野中生萌選手が松屋の壁面をよじ登る「ビーツ」(イヤホン)のビジュアル――。外壁広告はクリエイターたちの表現の場にもなった。各社がこの外壁のためのオリジナル企画の知恵を絞る。

異色ながら大きな反響を集めたのが、松屋で開催された「ミッフィー展」だった。コロナの感染拡大の不安が広がっていた20年7月。ビルの白い壁面に「・」「・」「×」だけでミッフィーを表現した。シンプルなデザインが人々の心をとらえた。横には「エッセンシャルワーカーの皆さま ありがとうございます。」とのメッセージが添えられた。「中央通りを歩く多くの方がスマホでミッフィーを撮影していました。SNSの拡散でいえば、過去最大の反響だったと思います」

広告料金はいくらなのか?

さて、気になるのが広告料金である。

例外もあるが、基本は4週間で販売されており、広告料金は1650万円。これとは別に施工費が1300万円以上かかる。

120m×22m、30m×22mのガラス面に広告を貼り付けるのは大掛かりな工事になる。外壁広告の設置は、松屋銀座の営業が終わって、中央通りの通行量が減り始める夜10時から朝6時にかけて行われる。中央通りの1車線を止め、大型のクレーン車を入れて、専門業者が一つずつ貼り付ける。だいたい3日間を要する。施工費が1300万円「以上」というのは、デザインの複雑さによって価格が変わるからだ。

どんな広告でも出せるわけでもない。銀座には景観などに関する自主的なルールがある。銀座の事業主らで構成する銀座デザイン協議会が「銀座らしいか」を基準に審査を行う。広告デザインが通らなかったケースも数件あるという。

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