コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)の2023年3月通期決算は、売上高が前期比19.1%増の199億5300万ユーロ(約2兆9929億円)、営業利益は同34.1%増の50億3100万ユーロ(約7546億円)、純利益は同85.5%減の3億100万ユーロ(約451億円)だった。なお、純利益が激減した理由として、非継続事業の影響や、傘下に持つラグジュアリーEC大手のユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP)の株式の47.5%を高級ECのファーフェッチ(FARFETCH)に、3.2%をドバイの投資会社シンフォニー・グローバル(SYMPHONY GLOBAL)に売却することに関連した非現金費用34億ユーロ(約5100億円)の計上が挙げられる。継続事業のみで見ると、純利益は同60%増の39億1000万ユーロ(約5865億円)と過去最高益だった。
地域別の売上高では、ヨーロッパが同30.4%増の43億7100万ユーロ(約6556億円)、南北アメリカは同26.6%増の44億6700ユーロ(約6700億円)、中東及びアフリカは同23.6%増の15億6200万ユーロ(約2343億円)だった。日本を除くアジア太平洋地域は、1~3月期(第4四半期)に中国市場が大幅に回復し、同6.0%増の79億3700万ユーロ(約1兆1905億円)だった。22年10月ごろから外国人観光客が急増し、国内需要も旺盛だった日本は、同44.5%増の16億1600万ユーロ(約2424億円)と好調だった。
部門別では、「カルティエ(CARTIER)」や「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」を擁するジュエリー部門が同21.1%増の134億2700万ユーロ(約2兆140億円)、ウオッチ部門は同12.8%増の38億7500万ユーロ(約5812億円)だった。
ヨハン・ルパート(Johann Rupert)会長は、「全ての事業で売り上げを伸ばすなど、素晴らしい業績を上げることができてうれしく思う。これは地政学的および経済的な先行き不透明感が続き、インフレが加速する中でも、傘下メゾンがそれぞれの強みを発揮したことによるものだ。今後も、急激に回復しつつある中国人観光客をはじめ、ラグジュアリー消費者からの高い需要に柔軟に対応していく」と語った。
一方で、同氏はアナリスト向けの決算説明会で、米連邦準備制度理事会(U.S. Federal Reserve Board)が急激に利上げを進めていることについて「無謀だ」とコメント。米国市場は22年11月ごろから減速していると指摘し、「一般論として、期待していたよりもハードランディングとなりそうだ」と見通しを述べた。
同氏はまた、ブランド価値を守ることの重要性に言及。ライバルであるケリング(KERING)が擁する「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が、22年のホリデーキャンペーンで児童の性的消費や虐待を促しているとして厳しく批判されたことに触れ、「当社の傘下ブランドであれば起きなかったことだ。われわれはカルチャーを忠実に守り、ブランド価値を育成し、それを大切に維持していきたいと考えている」と説明した。
兼ねてより憶測が流れている、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)がリシュモンや「カルティエ」の買収に関心を示しているのではないかという件については、「いずれも売るつもりはない」と一蹴した。ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者から、そうしたアプローチを直接受けたことはないと話した。