ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。セレクトショップ最大手のユナイテッドアローズが2023年3月期業績を発表した。苦しんだコロナ禍からはだいぶ回復したように見えるが、小島氏は積み重なっていた課題は解決されていないと指摘する。
ユナイテッドアローズの23年3月期決算は売上高が9.9%増の1301億3500万円、営業利益が278.0%増の63億6200万円、純利益が492.6%増の43億4100万円(一株当たり152.37円)とようやく大幅回復したが、売上高も営業利益もコロナ前には届いておらず、コロナ前からの課題も山積しており、本格回復には遠い状況だ。目先の成果を追って長期戦略や財務政策も不透明で、企業の存在理念やガバナンスという根源的なリーダーシップも揺らいでいるように見える。
本格回復には遠い業績
売上高も利益も大幅回復したと言っても、20年3月期比では売上高は82.7%、営業利益は72.6%にとどまる。既存店売上高も20年比85.0%と、アダストリア(23年2月期)の97.1%はもちろんAOKIのファッション事業(23年3月期)の95.0%にも劣る。
ユナイテッドアローズは従来路線のさまざまな課題を解決できないまま壁にあたり、コロナ前20年3月期はすでに業績が陰り始めていたから、直近のピークだった19年3月期と比較する必要がある。さすれば売上高は81.9%、営業利益は57.5%、純利益は67.6%と回復はさらに遠くなる。
好立地店舗での正社員による手厚い接客を理念とするユナイテッドアローズでは平米当たり売上高と一人当たり売上高が収益を大きく左右する。23年3月期の直営店の平米当たり売上高は127.7万円と20年比で86.3%、19年比では80.4%にとどまり、ピークだった14年3月期の187.9万円に対しては68.0%に過ぎない。同一人当たり売上高も3186.1万円と20年比では103.6%と上向いても19年比では94.4%にとどまり、ピークだった14年3月期の3814.7万円に対しては83.5%に過ぎない。
平米当たり売上高の低下は賃料負担率、一人当たり売上高の低下は人件費負担率の上昇に直結し、収益を圧迫している。23年3月期の賃借料率は14.26%と19年の14.22%まで戻したが(22年は16.24%)、14年の12.50%と比べればまだ1.67ポイントも高い。同人件費率は16.45%と20年の15.92%までも戻せていないし、16年の15.18%と比べれば1.27ポイントも高い。
結果、23年3月期の販管費率は46.73%と19年の44.49%はおろか20年の45.25%も上回り、14年の42.68%と比べれば4.05ポイントも高い。粗利益率こそ正価販売の徹底で51.62%と19年の51.45%を超えたが、54%台に乗っていた13年までとは格差がある。
23年3月期の営業利益率は4.89%と21年の−5.43%、22年の1.42%からは急回復したものの20年の5.56%には届かず、13年の10.91%と比べれば6.02ポイントも低い。運営効率が悪化しているのに同じ運営方法にとどまっているのだから、損益が劣化するのは必然だ。実際、ユナイテッドアローズの事業運営はEC関連を除けば一昔前からほとんど変わっていない。
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