これからは“ライフスタンス”でブランドを選ぶ時代が来るという。しかし「“ライフスタンス”とは何ぞや?」と思う人は多いだろう。消費者が何かを購買するときは“もの”、つまり商品そのものの品質やコストパフィーマンスで選ぶ。次に“こと”だ。ブランドの背景や憧れ、世界観への共感が購買の決め手となる。そしてさらに進んだ段階が、“こころざし”つまりは“ライフスタンス”だ。消費者は企業のビジョンや姿勢に賛同し、一緒に社会を変えたいと、同企業の商品を選ぶ。ビジュアルで伝えられる“もの”や“こと”に対し、“ライフスタンス”は言葉で伝えにくい。中長期的な行動でそのビジョンを発信していくしかないのだ。
そんな中、志を同じくしたブランドが横でつながり、経済の新しい形「ライフスタンス・エコノミー」を広げるという、ブランドの垣根を超えた共同体「パレード(PARaDE)」が、2022年6月末に始動した。参画した企業は、あんパンでおなじみの老舗「銀座 木村屋総本店」や、クラフトビールの「コエド(COEDO)」、日本の工芸を元気にする「中川政七商店」、ビューティサロンの「ウカ(uka)」など多岐にわたった。
大人の文化祭“エキスポ”で
つくる。買う。選ぶ。の未来を体験
23年3月下旬には、「パレード」が主催するイベント「ライフスタンス エキスポ(Lifestance EXPO)」が、東京・品川のザ・キャンパス(THE CAMPUS)で開催した。同イベントは「つくる。買う。選ぶ。の未来」をテーマに、全15のブランドがライフスタンスに触れられる展示や商品販売、ワークショップなどに参加できるブースを出展した。他にも、学生が経営し、地域の名産品をセレクト・発信するスタートアップ企業「アナザー・ジャパン」、長野県の山の上で生活雑貨店を扱う「わざわざ」なども参加した。
同イベントは、流通やメディアに向けてではなく、一般に広く開かれている点も特徴だ。私も足を運んだが、各ブースからの熱が伝わり、大人の文化祭のようなわくわく感があった。入場料500円を支払うと、イベントで利用可能なお買い物チケット500円と交換してくれるので、実質無料。この500円をどのブースで使おうか、賛同した企業に投票するような気持ちになる。
企業のライフスタンスを知ることが
自分を見つめるきっかけに
ライフスタンスを問いかける、参加型の展示もあった。ビジョンズ(visions)によるコンテンツは、各ブランドのソーシャルテーマに触れながら、自分自身の「はたらくを考える」。「仕事において大切にしたい価値観をあらわす18のキャリア観」と、「社会のどんな分野で役立ちたいかを考える15のソーシャルテーマ」から、自分にフィットしたカードを数枚ずつ選ぶ。自分自身のビジョンを見つめ直した後なら、各ブランドのライフスタンスも理解しやすくなる。ベートーベン(Ludwig van Beethoven)やナイチンゲール(Florence Nightingale)、渋沢栄一ら、「あの偉人が今を生きていたらどんなソーシャルテーマを持つだろう?」と予測している展示も興味深かった。
「ライフスタンス エキスポ」は、「パレード」に参画した企業のライフスタンスを伝えるべく、今後も開催する予定だという。各ブランドのライフスタンスが生活者に伝わり、共感するブランドを応援するような経済のあり方が広まれば、結果的に“いい会社”が増え、“いい社会”が実現すると「パレード」は考えている。未来を考える若い世代や子供たちにこそ、ぜひ体験してほしい。
ブランドを深く知る探訪ツアーも
各ブランドのライフスタンスを発信する「パレード」の活動は、個々でも行われている。例えば、ブランドの本拠地を「パレード」メンバーとともに訪れ、ものづくりに触れる「PARaDEでいこう! LIFFT探訪ツアー」がその一つだ。5月27日に開催された回では、ボタニック(BOTANIC)が運営する、東京・中目黒の「リフト(LIFFT)」をクローズアップ。ブランドビジョン「花・植物を気軽に贈る・飾るカルチャーを創る」を体感しながら、オンラインフラワーサービス事業の意義について考えた。
「リフト」では、フローリストが自ら足を運んで全国各地から選び抜いた花を、洗練された花束で提供する、サブスクを運営している。中間業者を極力省き、移動中の花の傷みを最小限に抑え、在庫維持に必要な人件費や廃棄ロスを削ることで、適正価格で届ける。農家と消費者がより密接につながり、花を飾る習慣を定着させることで、需要も安定するだろう。さらに、実店舗とうまく連携することで、無駄な在庫を調整でき、フラワーショップにとってもメリットが生まれる点にもはっとした。農家、小売り、消費者の三方にとってうれしい取り組みなのだ。
「探訪ツアー」の参加者は、ボタニックが手掛ける中目黒のフラワーショップ「イクス フラワーショップ アンド ラボラトリー(ex. flower shop & laboratory)」を訪れ、業界の流通の現状や、ロス問題への対応など、現場の話を聞きながら、バックヤードを見学した。実際に花束を作るワークショップでは、業務も体験した。第2部では上甲友規ボタニック社長と、パレード社長でもある、中川淳・中川政七商店会長、パレード取締役であり、バッハの幅允孝ブックディレクターが登壇し、トークショーを開催した。参加者は業界以外がほとんどだというが、熱心にメモを取り、積極的に質問している人もいた。
「パレード」がファシリテーターのように進行役、誘導役になることで、今まで伝わりづらかった各企業のライフスタンスを分かりやすく発信していく。「いい会社が増えれば社会もきっと良くなる」と、中川会長は語る。今までは商品を販売する企業に絞っていたが、今後はサービスを提供する企業なども募り、活動をさらに広げていくことも構想中だ。
企業の志に共感するだけでなく、新しい経済活動を広げていく――志あるブランドとつながることで、私たちも賛同者になれる。その積み重ねで日々の生活を楽しみつつ、世の中をより良く変えていくことができるかもしれない。