「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、ドイツ・ベルリンで2024年春夏メンズ・コレクションをショー形式で現地時間12日に発表した。会場は建築家ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)が1968年に手掛けた新ナショナルギャラリー(Neue Nationalgalerie)で、ガラスとスチールで構成する荘厳な雰囲気と、ルートヴィヒ建築の中でも最もミニマルなものの一つといわれる設計が特徴だ。世界から集ったゲスト約200人に披露した24年春夏メンズ・コレクションには、1982年の独仏映画「ケレル(Querelle)」で俳優ジャンヌ・モロー(Jeanne Moreau)が口ずさんだフレーズ“Each Man Kills The Thing He Loves (人は愛するものを殺す)”をタイトルに掲げた。
コレクションは、パワーショルダーのジャケットにスタンドカラーのシャツ、ハイウエストのシャープなスラックスとパテントレザーのヒールブーツを合わせたストライプのタキシードスタイルから始まる。ここ2シーズン継続している、ウィメンズ・コレクションとの流動性をさらに深めていく意思は、ファーストルックから明らかだった。
その後も、大きく張り出したスクエアショルダーのボクシーなジャケットと、2タックの細身のボトムのバランス感を終始共通させながら、インナーは「ケレル」で主演のブラッド・デイヴィス(Brad Davis)が着ていた胸元が大きく開いたタンクトップをサテンで再現し、ラヴァリエ仕立てのブラウス、スカーフを巻きつけたようなシフォンのトップスなど、クチュールのような素材使いで軽やかさを表現する。
クラシックとモダン、マスキュリンとフェミニンを縦横無尽に交差させるクリエイションは、「サンローラン」を象徴するモチーフ使いでも現れている。ポルカドットは肌が透けるシアー素材のトップスに、レオパードはオーセンティックなシャツやトレンチコートに用いて、コレクションにアクセントを加えた。ウエストがドローコード仕様のスラックスは、非日常なスタイルと日常を結びつけているようだった。
ベルリンと共鳴し合う美学
1年前にモロッコ・マラケシュで発表したコレクションから、アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vacarello)=クリエイティブ・ディレクターの美学は、さらにストイックに研ぎ澄まされている――そう確信したのは、ラストの演出だ。日が徐々に沈むと共に、ガラス張りの会場外に設置した巨大なライトボックスが強い光を放ち、フィナーレではモデルたちのシルエットが鮮明に浮かび上がる。そのバリエーションは決して多くないものの、スタイルをあえて絞ることで、メンズでは無二の世界観のアピールに成功しているといえるだろう。
前シーズンは、パリ・メンズ・ファッション・ウイークに参加しての発表だったが、今季は一転して、ファッション・ウイークのスケジュールから外れての発表となった。ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターは、ベルリンについて「昔から好きな街で、若い頃はよく遊びに来ていた」と語る。コレクションには、ベルリンの街から着想を得た、どこかダークでノスタルジックなムードを盛り込んでいるという。昨今主流のエンターテインメントとしてのファッションショーの反対を行き、要素を限りなく削ぎ落としたルートヴィヒ建築と、「サンローラン」の研ぎ澄まされた美学が時を超えて共鳴し合う美しいショーだった。