紳士服大手のAOKIホールディングスは立ち直れるか。コロナ禍でのビジネススーツ需要の急減、そして昨年の東京五輪・パラリンピックでの汚職をめぐるトップの逮捕劇は、同社にとって大きな痛手となった。失った信用を取り戻すための社内コンプライアンスの徹底と、ビジネススーツに頼らない商品戦略への転換を両輪で進める。
昨年8月、当時の会長で創業者の青木拡憲氏、社長の寶久氏、専務執行役員でファッション事業会社AOKI社長の上田雄久氏の3人が贈賄の容疑で逮捕された。報道によると、同社は東京五輪・パラリンピックの大会スポンサー選定や公式ライセンス商品の販売契約をめぐり、大会組織委員会の高橋治之理事(当時)に便宜を図ってもらった見返りに、計5100万円の賄賂を受け渡したとされる。東京地裁は今年4月、3人に有罪判決を下した。
主力の紳士服事業も逆風が吹く。ビジネスシーンのカジュアル化でじわじわ進んでいたスーツ離れは、コロナ禍のテレワークで一気に加速した。AOKIの2019年3月期に1144億円あった売上高は、21年3月期には853億円まで急減。23年3月期の売上高も945億円と、コロナ前の水準には戻っていない。
ビジネススーツ一本足打法から脱却
AOKIは14日、今後の事業戦略に関する記者説明会を開いた。登壇した森裕隆社長は、コロナと汚職事件の渦中で昨年7月に就任した。森社長は一連の汚職事件について「ガバナンスの強化に努め、お客さま、ステークホルダーとの信頼回復に全社一丸で取り組んでいく」と述べた。同社では年に10回行うエリアマネージャーの集合研修において、企業コンプライアンスに関する2時間程度の学習時間を設けているという。
商品戦略面では、ビジネススーツ頼みのMDからの脱却を目指す。現在、スーツを中心とするビジネス分野、セットアップなどのカジュアル分野、ウィメンズ分野の売上高構成比は7:1:2。これを5年後の28年3月期に5:2:3、10年後の33年3月期には4:3:3にする。
近年のカジュアル分野でヒット商品となった“パジャマスーツ”は、パジャマのようなリラックス感とスーツのきちんと感を求めるリモートワーカーに支持を得て、20年11月の発売から1年半で15万着を販売した。今後はセットアップと合わせて着回せるTシャツやカジュアルパンツを強化する。ウィメンズでは機能性の高いセットアップ、ジレ、スカートなど休日でも着回しが効くアイテムを拡充する。
商品構成におけるビジネスウエアの比重が縮むことは、「スーツの売上高が大きく縮むということではない」と森社長。足元では、体に合ったスーツを求める顧客ニーズを捉えた「クイックオーダースーツ(以下、QOS)」が好調に推移している。店頭で生地の色柄を選び、スタイリストが採寸・フィッティング。スリム・普通などフィッティングの調整をした上でオーダーしたスーツが、最短4日で受け取れる。「当社のコアはビジネススーツ。これを武器に商品軸を広げながら、トップライン(売上高)の拡大を狙っていきたい」。