「WWDJAPAN」は、2023年6月19日号ファッションロー特集の表紙用に、アーティストの草野絵美にAIで生成した作品を依頼した。候補として提出された作品は、いずれも草野の作風である“レトロフューチャー”という特徴を残しつつ、人物は非常にリアルで、ぱっと見ただけではAIで作られたものかどうかは分からないクオリティーのものだった。生成AIを使用した作品制作は、同じプロンプトを入れても毎回アウトプットが変わる。そのため、無限に出力されたものの中から「選ぶ」という人間特有の作業を経ることが重要であり、それが最も大変で、一番楽しい作業なのだという。今現在も進化を続ける生成AIを利用した創作活動について、草野に話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年6月19日号からの先行公開で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
草野絵美(くさの・えみ)/アーティスト
1990年、東京都出身。Fictionera代表。レトロフューチャリズム、若者文化、最新テクノロジーをテーマに創作活動を行うマルチディシプナリー・アーティスト。「Satellite Young」の主宰兼リードシンガーとしてSXSWなどで活躍。2021年、当時8歳の息子の「Zombie Zoo」プロジェクトをきっかけにWeb3ムーブメントに参加。アニメNFTプロジェクト「新星ギャルバース」を考案・共同創設するなど、幅広く活躍する。東京藝術大学非常勤講師。著書に「親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て」(CCCメディアハウス)
WWD:「WWDJAPAN」2023年6月19日号の表紙用画像を制作してもらったが、ボツにしたもの含めて何パターン作った?
草野絵美(以下、草野):1000枚以上は作りました。AIアートは、生成自体は無限にできるけれど、「選ぶ」という作業は人間の美意識によるところが大きく、AIにはできない。人間にしかできなく、そこが楽しいと感じます。5月に行われたNFTアートのイベントでも「選ぶ作業が一番大変だよね」という話になりました。
WWD:表紙の制作過程を教えてほしい。
草野:画像生成AIの「ミッドジャーニー」と、自分の顔を学習させた別のAI、さらにそれを高解像度にするAIを使いました。今回は「六法全書を持ったフォーマル感のある女性モデル」というお題に対して、まず30点ほどのバリエーションを編集部へ送り、そこから絞ってもらい、フューチャリスティックなものに定まっていきました。私としては“2000年代初頭の時代におけるフューチャリスティック”を意識しました。「六法全書」と入れても出てこないので、「Dictionary(辞書)」などを入れてみました。“フューチャリスティック”というワードにAIが引っ張られると、本ではないものが出てきたりもしました。また、「Magazine cover layout(雑誌の表紙のレイアウト)」と入れたことで、モデルの周辺に空間ができる構図になりました。「Hyper realistic(高度にリアル)」「Highly detailed(ディテールに富んだ)」といったプロンプトを入れることで、リアルな画像に仕上がりました。編集部からのリクエストもあり、フォトショップなどでの追加修正はせず、AIツールだけの使用にこだわりました。
WWD:どのAIを使うか、どう組み合わせるか、また使う順番などによってクリエイターの味が出る?
草野:そうですね。さらに同じプロンプトを入れてもアウトプットは毎回違うし、説明する言葉のチョイスが違えば、違うものが生成されます。AIアートというと、既存の著作物をパッチワークのようにつぎはぎして作っていると誤解している人も多いようです。しかしAIは、例えば「人間の手には指があって、指には関節がある」とか「クリスマスは、赤と緑で彩られる」という、言葉に紐づいた画像の特徴を認識して学習します。その後、学習した特徴に基づいて予測した形を出力します。ですから、切り貼りとは違います。コラージュするのとは違うからこそ、AIの解釈を予測しながら要素を紡ぎだすのにコツが要りますし、塩梅が難しいです。構図や目線がうまくいっても本の表紙がコミック風になってしまうなど、全てがバチっとハマるものを生成するのも難しい。でも、むしろそこにAIアートの面白さがあります。指の本数は正しくなってきましたが、髪形のレイヤーの入れ方などがまだ苦手なように感じます。もしかしたら、私自身の髪形に対するボキャブラリーの少なさの反映なのかもしれません(笑)。
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