島根県の一畑百貨店(松江市)が2024年1月14日で閉店すると発表した。コロナの5類移行で客足は戻ってきたものの、郊外のショッピングセンター(SC)やカテゴリーキラーに対しての劣勢には変わりなく、黒字化は見込めないと判断した。島根県は全国で3番目の「百貨店ゼロ県」になる。百貨店は過去3年だけで30店舗近くが閉店している。一方、大都市の一部の基幹店では過去最高売上高が相次ぐ。コロナを経て、優勝劣敗がますます鮮明になる。
13日に閉店を発表した一畑百貨店は1958年に創業し、98年にJR松江駅前に移転して営業を続けてきた。親会社は一畑電気鉄道。売上高はピークである02年の108億円から直近の22年は43億円まで落ち込んでいた。
20年1月に創業320年の大沼が経営破綻した山形県、同年8月にそごう徳島店が撤退した徳島県に続き、島根県も百貨店が消滅する県になる。かつて百貨店は全国の県庁所在地はもちろん、人口数十万人の地方都市でも当たり前のように営業していたが、2000年の大店法廃止後、郊外に増加したSCに客足をじわじわ奪われた。一畑百貨店も島根県内で16年に浜田店、19年に出雲店を閉め、松江の1店舗のみになっていた。島根県以外でも16県で百貨店が1店舗しかない瀬戸際にある。
地方では「百貨店ゼロ県」が広がる
地方都市は車社会のため、中心市街地の空洞化の問題を抱えている。百貨店の撤退は、周辺の小売店や飲食店の経営にも響く。街全体が地盤沈下する問題をはらむ。
セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武を米投資会社フォートレス・インベストメント・グループに売却するに際し、秋田県と福井県の首長がそろって百貨店の営業存続を強く訴えた。フォートレスが損益だけで西武秋田店と西武福井店の撤退を決めれば、両県も百貨店ゼロ県になり、空洞化に拍車がかかるからだ。人口65万人の島根県でも唯一の百貨店がなくなる衝撃は大きい。丸山達也知事は「地域経済に大きな影響が出ることも懸念される」とコメントを出し、島根県と松江市による対策チームを立ち上げた。
今年に入ってから1月に東急百貨店渋谷本店、高島屋立川店、さらに北海道・帯広で100年以上の歴史を持つ藤丸が閉店した。4月には名鉄百貨店一宮店が来年1月に閉店すると発表された。日本百貨店協会に加盟する百貨店数は99年に311。それが今年4月の時点で181に減っている。
大都市の基幹店は富裕層と訪日客で潤う
地方や郊外立地の百貨店の苦境とは対照的なのが大都市の基幹店である。特に東京、大阪、名古屋の売上高一番店の好業績は際立っている。
伊勢丹新宿本店の23年2月期の売上高は前期比29.2%増の3276億円となり、31年ぶりに過去最高を更新した。阪急本店(阪急うめだ本店、阪急メンズ大阪)の23年3月期の売上高も前期比30.1%増の2610億円で過去最高になった。JR名古屋高島屋(タカシマヤゲートタワーモール含む)も23年3月期で前期比21.7%増の1724億円と過去最高を記録した。コロナからの回復どころか、経験ないほどの活況に沸く。
好調の立役者は高額品だ。「ルイ・ヴィトン」「シャネル」「エルメス」といったラグジュアリーブランド、「ロレックス」に代表される高級時計、「カルティエ」「ブルガリ」のような宝飾品、現代アートなどを含めた美術品が飛ぶように売れる。
高額品を買い支えるのは富裕層と訪日客である。
アベノミクス以降の株高で、富裕層の持つ資産は増加の一途。野村総合研究所によると、純金融資産1億円以上の“富裕層”は05年の81万世帯から21年は139万世帯へ、5億円以上の“超富裕層”は5万世帯から9万世帯にそれぞれ増えている。百貨店各社は外商事業を強化するため、外商員を増強し、サービスメニューも厚くした。これが身を結び、百貨店で年間数百万円を落とす富裕層が特に若い世代で増えている。
訪日客は昨年10月の入国規制の撤廃から急回復した。最大のボリュームだった中国の観光客は戻りきっていないものの、東南アジアや欧米からの観光客の消費が活発だった。コロナ下で進んだ円安と海外のインフレによって、訪日客にとって日本はお得な買い物天国だ。彼らも高額品を買い求める。
過去最高売上高を達成した百貨店は、高額品の品ぞろえが充実し、SCやEC(ネット通販)と競合しない富裕層の分厚い顧客基盤を持ち、さらに訪日客を呼び込むことに成功している。これが可能なのは大都市の基幹店にほぼ限られる。一口に百貨店といっても地元の大衆に支えられ、ボリュームゾーンの価格帯で構成された地方・郊外の店舗とは中身が全く異なる。
百貨店が冬の時代といわれてひさしい。だが3年に及ぶコロナ禍を経て、業態論ではくくれないほど、百貨店の二極化が進んでいる。