ファッション

混迷のロンドン・メンズ 脱却の鍵は若手デザイナーの継続支援

2024年春夏シーズンのロンドン・ファッション・ウィーク(London Fashion Week 以下、LFW)が、6月9~12日(現地時間、以下同)に開催された。今季の公式スケジュールに参加したのは6ブランドのみで、他にはウエストミンスター大学 BA(UNIVERSITY OF WESTMINSTER BA)とレイブンズボーン大学(Ravensbourne University)の卒業コレクションのファッションショーや、メディア関係者によるパネルディスカッションなどで構成した。

目玉ブランド不在

ロンドンを拠点にする「マーティン ローズ(MARTINE ROSE)」は、LFW中にオフスケジュールでショーを開催。ロンドン拠点の「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」はミラノ・メンズに、「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」と「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」はパリに発表の場を移しており、メンズのLFWは目玉ブランドが不在の状況にある。 LFWを主催する英国ファッション協議会(British Fashion Council以下、BFC)のキャロライン・ラッシュ(Caroline Rush)CEOは、「今季は新しいフォーマットを試験的に導入した、移行期となるシーズン」と話す。「24年6月のLFWを、文化や職人技、メンズウエアのストーリーテリングに焦点を当てた内容に再構成しようとしている。新たな道を切り開くために、今季はファッションの交差点を探求する文化イベントで構成した」と続けた。

趣向を凝らした発表方法

初日は、オフスケジュールでショーを開催した「ダニエル・W・フレッチャー(DANIEL W. FLETCHER)」2023-24年秋冬コレクションでスタート。サヴィル・ロウに店を構える老舗テーラー「ハンツマン(HUNTSMAN)」と協業し、“英国のものづくりの歴史”をテーマに掲げる。174年の歴史を誇る「ハンツマン」の仕立ては、袖山を出したパデッドショルダーに、肩から背にかけて曲線を描くイングリッシュドレープ、重厚感のある分厚い生地で典型的なブリティッシュスタイルを象徴する。伝統に忠実なテーラリングとは相反する、オーナーサイズのシャツやワイドなトラウザーで流動性を加えて現代化を試みた。真新しい手法とは言い難いが、完璧な仕立てが放つ“真面目なダンディズム”という英国らしい美学が感じられた。

公式スケジュールに参加した「カシミ(QASIMI)」は、プレゼンテーション形式でコレクションを発表。かつて取り入れていたミリタリーやスポーツの要素は薄くなり、イタリア製のシルクやオーガンジーによる軽やかさと、手刺しゅうの装飾でロマンティシズムに傾倒する。丈が長めのシャツと同素材のパンツとのセットアップやウィメンズのガウンなど、ブランドのルーツである中東を想起させるスタイルも多く見受けられる。基盤であった英国仕込みのベーシックは揺らぎ、より中東文化に焦点を当てている印象を受けた。

ほかにも、公式スケジュールでロサンジェルスを拠点にする「ジャスティン カズン(JUSTIN CASSIN)」とロンドン発アクセサリーブランド「SMRデイズ(SMR DAYS)」、「2022 インターナショナル・ウールマーク・プライズ(2022 INTERNATIONAL WOOLMARK PRIZE)」を受賞した「サウル ナッシュ(SAUL NASH)」がLWFでコレクションを披露した。 

ショーだけではなく対話の場へ

パネルディスカッションでは、南アジアのメンズファッションを発信する媒体「ザ・アジアン・マン(The Asian Man)」が主導し、「ビジネス・オブ・ファッション(Business of Fashion)」創設者兼CEOイムラン・アメード(Imran Amed)らと、南アジアのメンズスタイルとファッション市場での今後の可能性について語った。彼らは、南アジア出身のメンズモデルがランウエイに起用される機会も増えており、刺しゅうをはじめとした伝統的な職人技だけでなく、その文化や美意識にも業界が注目していると分析。南アジア、特にインドの移民が多いイギリスならではの内容だった。ラッシュCEOは、「新たな見解と視点を提供して業界を前進させるために、このようなパネルディスカッションを来年以降も引き続き行いたい」と手応えを感じている。

イギリスは20年に欧州連合離脱(通称ブレグジット)を決定し、現在までに英国・EU間の通商・協力協定の適用を徐々に開始している。それが影響してか、今年1月31日に発表された国際通貨基金(IMF)で、イギリス経済が先進国の中で唯一、マイナス成長となる見方を示した。企業投資が大きく低下したほか、EU出身の労働者減少による労働力不足が広がり、このような国の経済的不安が若手デザイナーにも影響を及ぼす懸念がある。BFCはこれまでも将来有望な才能を積極的に支援してきたが、昨今はスターデザイナーを排出できておらず、ファッション・ウイークからメンズブランドが続々と離脱しているのも事実だ。ラッシュCEOは、「BFCは若手デザイナーに、財政的および指導的サポートを提供している。彼らを支援することは、ロンドンの地位を維持、発展させるために、最優先課題であり続ける。若手育成プログラム『ニュージェン(NEWGEN)』は今年で30周年を迎え、今年9月にデザインミュージアム(Design Museum)で画期的な展覧会を開催予定だ。『ニュージェン』の卒業生を祝うとともに、BFCのサポートによる長期的でポジティブな影響についての洞察を得ることができるはずだ」と語った。

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