ファッション

「ヴァレンティノ」に胸が高鳴り「ディースクエアード」の貝殻に武田久美子を思う 2024年春夏メンズコレ取材24時Vol.1

2024年春夏コレクションサーキットが、各都市のメンズ・ファッション・ウイークから本格的に開幕しました。「WWDJAPAN」は今回も現地で連日ほぼ丸一日取材をするノンストップのコレクションリポートを敢行します。担当は、メンズ担当の大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの大阪出身コンビ。時には厳しい愛のツッコミを入れながら、現場のリアルな空気感をお届けします。

14:00 「ヴァレンティノ」

イタリア・フィレンツェのメンズ見本市ピッティ・イマージネ・ウオモの取材を終え、朝一でミラノに電車移動し、ほぼ休憩なしの状態でミラノメンズがスタートしました。少し前までは、半日ほどゆっくり過ごす時間があっていろいろ整えられたのに、今はスケジュールがぎゅっと凝縮されているため、ホテル到着後すぐに「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のショーへと向かいます。序盤からハードモード。

今シーズンは「フェンディ(FENDI)」がピッティに参加したため、ただでさえ手薄なミラノ・メンズは大ピンチでした。そこへ「ヴァレンティノ」が3年ぶりのメンズ単独ショーをミラノで復活させるのですから、まさにファッション・ウイークにとっては救世主。しかし、コレクションが良くないと元も子もありません。その点、今回の「ヴァレンティノ」は堂々の大救世主っぷりを見せてくれました。

舞台は、ミラノ大学。しかも金曜日の14時なので通常の授業時間中で、生徒たちも校舎からショーを覗き込んでいるという不思議な光景です。ランウエイ中央にはバンドセットを設置し、米アーティストのデイヴィッド(d4vd)のパフォーマンスと共にショーがスタート。なんて豪華な演出なんだ。

今シーズンは“メンズワードローブの再解釈”をテーマに、ワークウエアやスーツといったメンズの普遍的なスタイルに、女性らしい柔らかなシルエットやモチーフを取り入れました。ワークウエアの定番素材コットンドリルやポプリンを多用しながら、クチュールのように繊細な刺しゅうや、首元には花のネクタイが付くなど、相反する要素をゆるやかに衝突させながら、メンズウエアのアップデートを図ります。イージフィットのシェイプは、ストリートライクなそれというよりも、ウィメンズウエアの軽やかな流動性を盛り込んだ印象。ホワイトやブラック、ピンク、グリーン、といった単色の色使いも洗練されたイメージをぐっと引き上げます。得意のデニムのパートでは、トレンチコートの裏地にレザーを張り合わせたり、ジーンズにはピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターが好きな金継ぎをイメージしたスタッズの装飾を施したり、繊細なテクニックを盛り込みます。

アクセサリーでは、「ポーター(PORTER)」とコラボレーションしたバッグ5型が登場。「ポーター」の代名詞“タンカー”をベースに、“Vロゴ”モノグラム“トワル イコノグラフ”をあしらい、ライナーには「ヴァレンティノ」らしいレッドを用いるなど、大小さまざまなアイテムを披露しました。ほかにもスクエアの新型バッグには、今回の着想源である作家ハニヤ・ヤナギハラ(Hanya Yanagihara)の代表作「ア・リトル・ライフ(A Little Life)」の一節をプリント。同作は、ゲストにもオリジナルの装丁で配布されています。

3年ぶりのメンズショーでは、ピッチョーリが愛するアートやカルチャーをふんだんに盛り込んだ内容で、いかにもメンズらしいアプローチに心を掴まれました。コレクションに掲げた“ヴァレンティノ ザ ナラティブ”は、2年前にスタートしたアートやカルチャーの育成に貢献する取り組みの名称でもあります。今シーズンのコレクションを通じてミラノ大学の奨学金制度のサポートや、ショーで使用した資材の循環、ミラノの公共公園への植樹活動など、さまざまな社会貢献もアピールしました。今後もメンズ単独で行うかは未定とのことですが、昨今のクリエイションが乗りに乗っているだけに、個人的には続けてほしいです。

17:00 「ラルディーニ 」

ラルディーニ(LARDINI)」に事件です!なんとブランド創業以来のシンボルだった花飾り“ブートニエール”のデザインが変わります。カラーはブラック一色で、クリップ付きのようなデザイン。飾り一つでシックな印象に近づきますね。

イタリアンクラシコのゾーンで不動の存在感を築いた後は、さらにファッション性を高め、新規顧客の獲得を狙いにいくのでしょうか。今シーズンのテーマは“サンド&マラケシュ”で、テーラリングの軸こそ不変ではあるものの、色使いがダルトーンのピンクやニュートラルカラー中心で、インナーには涼しげなシアーニットを合わせるというなかなか攻めた提案。バギーに近いシルエットのスーツも登場するなど、クラシコの雄「ラルディーニ」ってこんなブランドでしたっけ?と、いい意味で予想を裏切られたラインアップでした。もちろん、従来の顧客に向けてのアイテムも生産するのだとは思いますが、“ブートニエール”の刷新といい、「『ラルディーニ』は変わる!」というメッセージを存分に受け取りました。

18:00 「グッチ」

「グッチ(GUCCI)」の、ホースビット ローファーの誕生70周年を記念したエキシビション“グッチ ホースビート ソサエティ(GUCCI HORSEBEAT SOCIETY)”のプレビューに参加しました。10人の国際的なアーティストやクリエーターが不朽のアイコンを再解釈し、コンテンポラリーな表現で展示します。

26歳のニューヨーク拠点のファニチャーアーティスト、ピターパター(Pitterpatter)の代表作である”ブートレッグス テーブル(Boot-legs table)”の脚がホースビット ローファー“1953”に変わっています。立体オブジェを制作する27歳の韓国人アーティスト、ギュハン・リー(GyuHan Lee)による提灯風の作品と、29歳のイギリス人フォトグラファー兼ビデオグラファー、ボレイド・バンジョー(Bolado Banjo)がホースビット ローファーを芸術的かつノスタルジックに表現した映像作品のスペースなどがありました。70周年のホースビット ローファーの孫世代に当たる若いアーティストを起用し、カウンターカルチャー精神を融合させる「グッチ」らしい展覧内容です。

また、このエキシビション内で2024年春夏コレクションの一部も披露しました。足元はラバーソールでボリュームアップしたホースビット ローファーの新作が飾ります。ウエアにも、歪曲した“GGプリント”やウェブストライプを織り込んだケープ付きウインドブレーカーと、アイコンのモチーフを散りばめ、昨シーズンから継続する、“過去の遺産を未来へとつなぐ”テーマを感じました。9月には、新クリエイティブ・ディレクターのサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)による新生「グッチ」が始動します。歴史と多くのアイコンを抱えるメゾンが、どんな未来を描き出すのか今から楽しみです。

19:00 「1017 アリックス 9SM」

1017 アリックス 9SM(1017 ALYX 9SM)」の会場は、インダストリアルな雰囲気の大型倉庫。座席は若干寂しい埋まり具合でしたが、ショーは約1時間遅れでスタートしました。今季はマシュー・ウィリアムズ(Matthew Williams)なりのミニマリズムに徹したのか、非常に簡素な内容です。ワークウエアとストリートのミックスに少しのミリタリー、そして時折テーラードを差し込んだり。新しいロゴやボリュームたっぷりのエンジニアブーツには目が引かれたものの、かつて秀逸だったバランス感覚を失いつつあるように見えました。彼が手掛ける「ジバンシィ(GIVENCHY)」の昨シーズンは、レイヤードスタイルが新鮮で魅力的だったため、差別化を図るために自身のブランドではシンプルな表現に徹したのでしょうか。スタイリングも自身で組んだそうです。シンプルというと聞こえはいいですが、ショーという点では無味無臭でした。

20:30 「ディースクエアード」

ディースクエアード(DSQUARED2)」のインパクトは、前の無味無臭なショーの記憶を完全に吹き飛ばしてしまうほど勢いがありました。ショーが始まる前からすでに「ア〜」「オ〜」という女性の喘ぎ声が会場に響き渡ります。ヤンチャを意味する“Naughty”をテーマに、序盤は露出度高めなプレッピースタイルを連打。素肌にブレザーを羽織り、下着丸見えのローライズジーンズにピッチピチのTシャツ。挑発的なのかと思えば、アーガイル柄の靴下とクラシックなローファーといったクラシックな部分も見え隠れして、あくまで不良ではなく、自由を謳歌するヤンチャな男子といった印象です。

中盤以降は、パームビーチを眺める部屋を模した会場セットとリンクする、カラフルな柄物をミックスした開放感と、前シーズンから続くウエスタンスタイルへと変化していきます。各ルックが個性的で、好奇心と欲情と遊び心に満ち溢れたコレクションを作ってしまう、デザイナーのディーン&ダン兄弟が最もヤンチャなスピリットを持っているのが伝ってきました。

ウィメンズでは貝殻モチーフのアクセサリーで、お色気たっぷりな人魚姫をイメージさせます。ホタテ貝で胸を覆ったスタイルはどこかで見たことあるような……と記憶をたどっているうちにショーが閉幕。取材した2人で帰路話していると、“貝殻ビキニ”で有名になった武田久美子さんをショーの最中に2人とも思い描いていたことが判明。1989年に披露した“貝殻ビキニ”が、34年経ってミラノで日本人2人の頭に浮かぶって、相当タイムレスなのではないかと衝撃を受けたミラノメンズ初日でした。

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