「ニルスの不思議な旅」と聞いて、赤い帽子の少年がガチョウの背中に乗って空を飛ぶシーンや、「OH!カモナニールス旅に出かけよう、準備なんかいらない〜♪」とゴダイゴのタケカワユキヒデが作曲した歌が記憶の彼方から引っ張り出された方は私と同世代。この名作アニメは1980年にNHKで初放送されて以降、繰り返しリメイクされているそうなので他の世代でも知っているかもしれません。
楽しい子ども向け冒険物語としてだけ記憶されていたこの物語の舞台が実はスウェーデンで、原作者は女性として初のノーベル文学賞を受賞したセルマ・ラーゲルレーヴであることを、今月「マックスマーラ(Max Mara)」の2024年リゾートコレクションの取材のためにストックホルムを訪れて知りました。20世紀初頭、国から初等教育用の地理読本の執筆を依頼されたセルマは、スウェーデン各地を取材しその歴史や地理を織り込んで民話風に仕立てたそうです。
スウェーデンは、世界経済フォーラムによるジェンダーギャップ指数報告書で毎年5位以内にランクインするなど、女性の活躍で知られていますが、その歴史を紐解けば、セルマのような女性の存在と数多く出会うことになります。女性のエンパワメントをメッセージに掲げている「マックスマーラ」は、ストックホルムを舞台に大々的なショーを行うことで、ブランドメッセージをより強固なものとしたわけです。
ショー会場は、ノーベル賞の晩餐会が開かれるストックホルム市庁舎の青の間、そしてディナーは授与式が行われる金の間と、そのストーリー作りは完璧です。ショーに登場した白シャツに黒いタイのLOOK33は、セルマのポートレートから、です。
多くのモデルが髪に花を飾る姿は、短い夏の訪れを祝う夏至祭の装いから着想を得たもの。この夏至祭には美しいだけではない民衆文化との深い繋がりがあることもショーをきっかけに知りました(ホラー映画「ミッドサマー」のあの感じです)。もし美しい花輪を「カタチだけ」取り入れたならそれは「文化の盗用」となりかねない。けれど、ストックホルムの街を歩き、運河を渡り、美術館で歴史を学ぶなど短時間ながらも自分の目と足で文化に触れた後に見ると、このショーはむしろ「文化の理解」につながると自信を持って言えます。イアン・グリフィス(Ian Griffiths)=クリエイティブ・ディレクターが提示したインスピレーションを紐解く作業は、地中の根っこをどこまでも辿り続けるような、もしくは謎解きのような作業で非常に面白く、夢中になりました。
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