「WWDJAPAN」2023年6月19日号では、3年半ぶりにファッションロー特集を掲載した。“ファッションロー”とは、「ファッション産業やファッション業界に関わるさまざまな法律問題を取り扱う法分野」(経済産業省「ファッションローガイドブック2023」)のことだ。特集ではここ数年にわたるファションロー関連のニュースの“トレンド”を振り返りつつ、法改正から最近話題の生成AIまで、実務面から今知っておくべき5つのトピックを紹介している。
2つ目のトピックは、10月から施行される「ステルスマーケティング(ステマ)規制」について紹介する。ステマ規制とは、広告であるにもかかわらず、広告であると分からないようにして消費者に訴求するマーケティング方法を規制するものだ。依頼時に金銭の授受がなくても、「今後も案件を依頼する可能性も期待させるような言動」があった場合には、「ステマ」と判断される場合があり、「明確に指示を出していないから、対価を支払っていないから、と安易に考えてはいけない」と渡邊隆之弁護士は話す。インフルエンサーを起用したPRが一般的な手法として定着しているこの業界の関係者は、規制の内容を理解するだけでなく、過去案件についても再点検する必要がある。(この記事は「WWDJAPAN」2023年6月19日号からの抜粋に加筆しています)
渡邊隆之(わたなべ・たかゆき)/三浦法律事務所 弁護士
2022年弁護士登録、第二東京弁護士会所属。同年から三浦法律事務所に参画。独占禁止法や景品表示法などの競争法分野に関する案件に多く携わる。主要な執筆として「ステルスマーケティング規制と今後の対応策」(ビジネス法務)、「『食べログ判決』を分析するー優越的地位の濫用とアルゴリズム変更」(ビジネス法務) 【最近気になるファッションロートピック】下請法・フリーランス新法といった作品を生み出す“人”に関する法規制の動向
WWD:「ステルスマーケティング(以下、ステマ)」とはどういったものを指すのか。
渡邊隆之弁護士(以下、渡邊):告示では、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」と定義されています。簡単に説明すると、「広告であるにもかかわらず、広告であると分からないようにして消費者に訴求するマーケティング方法」といえます。例えば、「商品やサービスを提供する事業者(広告主)が第三者に宣伝を依頼しているにもかかわらず、消費者には広告と分からない形で表示させたり、事業者の従業員などが第三者に成りすまして宣伝したりする場合」を指します。媒体はテレビも雑誌もSNSも全てが対象となりますが、今回のステマ規制は、特にSNSを含むネット広告上での問題が深刻化していることをきっかけとして作られたものです。
WWD:なぜ「ステマ」はダメなのか。
渡邊:消費者は広告を見るとき、「実際より多少おおげさに言ってるよね」と理解して、割り引いて実際の価値を判断しますよね。ステマの場合は広告だという事実が隠されているので、割り引いて考えることができません。このように消費者から「割り引いて考える余地」を奪うことが問題とされています。消費者庁の検討会では、広告であることを明かした場合と隠した場合に商品への好感度に差が生じることや、レビュー操作による売上数への影響で有意な差が出たという海外の実験結果も報告されています。
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