中国の化粧品に関する新たな規制に「“レシピ”の流出につながるのではないか」との懸念が広がっている。中国・国家薬品監督管理局が公布し、2024年1月から施行となる「化粧品ラベル管理弁法」は、化粧品のラベル表示において化粧品成分を0.1%単位で含有量の多い順に表記することを義務付けている。これまで含有量1%未満の成分に関する表示順の規定はなかったが、今回新たに開示が必要となり、独自成分についても登録が義務付けられたため、コピー品が作られるのではないかと問題視されている。
「化粧品ラベル管理弁法(以下、弁法)」は、21年6月に公布。22年5月以降に登録または届出を行う化粧品は、ラベルを弁法の規定に合致させなければならず、それ以前に認可登録または届出を行った化粧品で弁法が要求するラベル表示に合致していない場合、23年5月1日までにラベルを更新することが求められていた。しかし、メーカーの対応が難航したため、24年1月1日施行に延長となった経緯がある。
実際にどのような影響が出ているか、国産メーカーの対応状況を日本企業のマーケティング支援などを行うノヴァルカ(NOVARCA、旧トレンドExpress)の中澤吉尋・取締役COO兼中国法人代表に聞いた。
新弁法は、ラベルの成分表記以外にも細かなルールが制定された。「商品の最小単位までラベルを表示する必要があり、個包装のフェイスマスクやサンプルパウチにも一つずつラベルを貼付しなければならない。文字のフォントやサイズ、ラベルの粘着度にも決まりがあり、違反した時の罰則も非常に厳格化した」と話す。
各社が対応を進める中、課題の一つとなっているのが原価管理だ。「ラベルによって原価が上がり損益分岐点が変わる。売れ筋だけを新弁法への対応が求められる一般貿易に残す企業も多い」という。中国ではブランド全体で売れるより、SKU別で突出したヒット商品が生まれることが多い。ブランドの全商品を一般貿易で登録すると原価率が高くなるため、スター商品だけを一般貿易で登録し、そのほかは新弁法の影響がない越境ECで販売するなどの臨機応変な対応が求められる。
また、約30年ぶりに改正され21年1月1日施行となった化粧品監督管理条例では、ラベル表記だけでなく登記・届出名義人の条件が厳格になり、生産企業および経営企業の品質責任、トレーサビリティー、不良反応報告、リコール等の責任・義務が強化された。中国進出のハードルは上がったが、日本企業にとってはいい流れでもあるという。
「成分開示はむしろ日本の化粧品に有利」
新弁法は、公布文にも「消費者の合法的な権利と利益を保護するため」とある通り、消費者保護を目的に制定された。中国の消費者は化粧品の成分を重視する傾向が強く、そうした消費者は“成分党”と呼ばれる。中澤COOによると「成分の含有量が少ないにもかかわらず、あたかも効果があるように見せる化粧品が乱立していたため整理する狙いがあった」と解説する。
その結果、他社が成分配合量を推測できてしまうラベル表記が求められるようになったが、中澤COOは「日本のブランドは成分を肌にどう届けるか、技術にこだわって開発する企業も多く、成分を見ただけでは完全にコピーすることはできない。これからは使用成分だけでなく、成分の質や技術をアピールするトレンドになるのではないか。新弁法によるマイナス影響は限定的だろう」と話す。中国では日本産の商品は品質や開発力の高さで認知されており、技術に強みを持つ企業であればむしろ追い風と言える。
一方で、日本の化粧品ブランドが中国市場で戦うには、技術力のアピール以外にもマーケティング上で注意すべき点があると中澤COOは指摘する。「一つはスター商品を作ること、次に新商品の投入サイクルを早めることだ」。
前述のように、中国ではブランド全体ではなくSKUベースでスター商品のみが大きな売り上げを上げる特徴がある。そのため、中国の消費者ニーズに沿ったアイテムを打ち出し育てる必要がある。
これまではEC大手の天猫(T MALL)やタオバオ(Taobao)などのアリババプラットフォームで旗艦店を出店し、いい代理商に頼めば売れる仕組みがあったが、今は免税店や小売機能を持つ動画アプリ抖音(DOUYIN)、快手(KUAISHOU)などプラットフォームが分立していることも考慮する必要がある。
中澤COOは「スター商品しか売れない中でどうしても値崩れや商戦期(セール期間)への依存、流通コントロールの難しさなど課題があった。新しい商品やブランドをローンチできていれば、次に進める」と戦略の見直しを提案する。
中国で売り上げを伸ばす化粧品企業の多くは年間を通じて新商品を投入し、スター商品も何度も改良を繰り返す。そうすることでセール期間に限らず売り上げの山を作り、セール期間も注目を集めることができる。
プラットフォームが分立することで、これまでに比べてチャネル選定も難しくなった。「これまでは“まずはアリババから”だったが、今はどこのチャネルからスタートし、順序はどうするか、ブランドに適したアプローチはそれぞれだ。選択肢が増えた分、商品を誰にどのように理解してもらい購入につなげるか、緻密なマーケティング戦略が必要になっている」。