「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)新メンズ・クリエイティブ・ディレクターのデビューコレクションとなる2024年春夏メンズ・コレクションを、パリのセーヌ川に架かる橋ポンヌフで現地時間6月20日に発表した。ちょうど5年前の6月21日は、前任のヴァージル・アブロー(Virgil Ablow)が同ブランドでの初陣を飾る、歴史的なショーを披露した日である。音楽界とファッション界のトップをまたにかけるメンズの新クリエイティブ・ディレクターは、どのようなコレクションを見せるのか。またヴァージルの遺志をどう引き継ぐのかなど、ファッション業界内外から多くの注目を集めた。
ゲストは1500人を超える人数で、一部はセーヌ川ほとりのボートに乗り込み、会場となるポンヌフの橋上へと向かう。ゲストは道中で、オルセー美術館の側壁のリアーナ(Rihanna)を起用した巨大なキャンペーンビジュアルを眺めながら、会場へとゆっくり近づいていく。会場に到着すると、一帯はキャンペーンでも予告していた通り、「ルイ・ヴィトン」の代表的モチーフである格子柄ダミエが広がる空間だ。ポンヌフの足元をダミエモチーフで飾り、ゲスト用シートのゴールドのブロックもダミエのように等間隔で設置している。一帯をまぶしいほどのゴールドで敷き詰めた理由は、コレクションテーマである“太陽”とリンクさせるため。パリ最古の橋を会場に選んだのは、パリとファレルの故郷であるアメリカ・バージニア州とのつながりを体現するためで、ルイ・ヴィトンのスタジオへと続くポンヌフ橋を、ファレルがファッションへのキャリアを開拓した道のりとして表現している。
太陽が沈みかけた22時に、いよいよ新生「ルイ・ヴィトン」メンズのショーが始まった。ファーストルックは、巨大ラペルのジャケットとベスト、ボクシーなショーツを合わせたコンテンポラリーなスーツ。Vゾーンをダミエのネクタイで飾り、足元はダミエをカモフラージュ風に表現した“ダモフラージュ”のブーツが静かな立ち上がりに異彩を放つ。続くルックにも“ダモフラージュ”のコートやスーツ、ブルゾン、トランク、バックパックなどにも新たな迷彩柄をあしらい、ダミエのアイデアを発展させたコレクションであることを強調する。ダミエの表現はさまざまで、グリーンやレッドなど色とりどりのプリントもあれば、ジャカードや、ニットやファーのインターシャなどで、伝統的モチーフの新たな解釈を試みた。
アイテムそのものは、ストリートウエアのシルエットをベースにしたシンプルなもの。軸となるイージーフィットのテーラリングはヴァージル時代にも多数提案していたが、モードに憧れた前任者が新たなシェイプを探求し続けたのに対し、ファレルは自身が着用していても違和感がないリアルクローズである。モードやストリート、メンズやウィメンズなど、あらゆる境界線を軽やかに超えてきたファレルのスタイルをコレクションにも反映しており、カジュアルなパーカのひもにパールのディテールをあしらったり、ウィメンズのバッグ“スピーディ”のメンズ版を登場させたりと、あらゆるジャンルを自由にクロスオーバーさせながら、リアルクローズに落とし込んでいく。
ほぼ全編を通してダミエを拡張したコレクションの中で、アメリカ人アーティストのヘンリー・テイラー(Henry Taylor)との協業アイテムがアクセントを加えた。20年にも「ルイ・ヴィトン」と協業した同氏の作風は、型にとらわれず、多彩なタッチを融合させたもの。その独特な感覚で描いた人物をジャケットやジーンズ、アクセサリーに刺しゅうし、40年にわたって活動している偉大なアーティストを称えた。
ウエアがシンプルな分、キャッチーなバッグやシューズ、アクセサリーの存在感はさらに際立った。“ダモフラージュ”やカラフルなダミエのほかにも、モノグラムのインターシャをあしらったシアリングのスリッパや、エンボス加工を施したダミエレザーのスニーカー、ダミエのアッパーステッチを施したフットボールブーツや、定番シューズ“LVトレーナー”にはクロコダイルのヌバックを使った。スタッズを打ち込んだローファーに合わせるのは、パールをあしらったルーズソックス。カーフスキンのバッグにはゴールドやシルバーの“LV”エンボスを施したり、ショッピングバッグ風のレザートートやクラッチバッグだったりと、華やかなフックをコレクションに加える。
バッグやシューズだけでなく、演出でも華やかさを加えるのがエンターティナーでもあるファレルの得意技だろう。ショーに、トランクを積んだ車を登場させたり、唐突にさすらいデザイナーのステファノ・ピラーティー(Stefano Pilati)らを出演させるサプライズは、ゲストの気持ちを高揚させた。
ファレルが得たチャンス、コレクションをかたちにするチームの責任、会場一帯で作り上げたパッション、フィナーレでゴスペル隊が連呼した“JOY”、そしてヴァージルが成し得た成功など、世の中の全てのポジティブな言葉や感情を、ファレルが掲げた“太陽”に集め、コレクションへと注ぎ込む。思い返せば、ヴァージルは同ブランドでのコレクションを披露するたびに「ダイバーシティー」という言葉をあえて繰り返すことで、その考えを世界に浸透させてきた。しかしファレルの「ルイ・ヴィトン」には、それをあえて言葉にする必要はなかった。世界から訪れたあらゆるゲストがポンヌフに集い、映画スターは一般ゲストとセルフィーを撮り、アフターパーティーのジェイ・Zによるパフォーマンスでは、人種性別年齢に関係なく人々が笑顔でモッシュしていた。この溢れんばかりのパワーと全く隙のない構成の一大スペクタクルで、新生「ルイ・ヴィトン」メンズの初陣は“完全勝利”したと言えるだろう。しかしファッションは続いていくもの。期待値がさらに上がった状態で、ファレルは今後どのようなサプライズを起こしてくれるのか楽しみだ。