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セレクトショップのイザが移転オープン 商業施設と環境問題の矛盾に切り込む「解体をデザイン」の意図を建築家に聞く

セレクトショップのイザ(IZA)が6月2日、東京旗艦店を拡張移転オープンした。南青山・骨董通りの拡張に伴うもので、移転先は21年8月までユナイテッドアローズ 青山 ウィメンズストアがあった場所だ。一般的に、新店舗は既存店の仕上げを解体して作り直すが、「イザ トウキョウ(IZA TOKYO)」は同ストアの枠組みをそのまま生かした。コンセプトは「解体をデザイン」。白いギャラリーのような内装はよく見ると、異なる質感やトーンの白が重なり、所々に見られる作業を途中で止めたかのような不完全さに人肌を感じる。このユニークな内装について、田中タキ=イザ代表と建築家の小野寺匠吾に聞いた。

工事を控えた今年初めのこと。内装について田中代表から建築家に出されたリクエストは「セレクトしてきたアイテムを美しく展示し、サステナブルを体現する空間」だった。イザは、インディペンデントな企業の代表が自ら世界各国を飛び回り、ラグジュアリーやデザイナーズブランドから集めた美しい服やアクセサリーを扱う店。それらを大切に見せたい、加えてビジネスと両立する “サステナブル”への自分なりの答えを反映したい、そう考えてのリクエストだ。

改装対象の空間は2層で約400㎡、そして居抜き。それに対して小野寺が提出したのはパースや設計図ではなく短い文章だった。「解体をデザイン」と題し、「これからの商業店舗開発をどう考えるか。じっくり解体にこだわることで新しいアプローチを切り開く挑戦」とあった。

小野寺はこれまでに、イザがディストリビューションする「パトゥ(PATOU)」の表参道店の設計などで実績があり信頼もあったというが、それにしても言葉のプレゼンだけから内装プランを選択するのは大きな賭けである。決めた理由について田中代表は「直感だった。以前の自分だったらゼロからピカピカの店を作る方が好きだったけど、今は違う。ゼロからではない、という制約がある方が新しいことをするチャンスだと思った」と振り返る。

内装にアーティスト集団の“視点”を加える

無秩序となりかねない「解体をデザイン」には文脈が必要だ。その役を果たしたのがアーティスト集団アーティファクト(Artifact)だ。普段はそれぞれに作品を作っているアーティストたちが施工チームを結成している。彼らは「解体をデザイン」というお題を受け、大いに盛り上がったという。

「解体をデザインすることは解体廃棄が出ないことだったり、解体しないことだったり、解体しながら考えることであったり、解体したら完成している状態も含む行為だと考えた」と小野寺。まるで禅問答だが、それぞれのアーティストには得意な素材があり、じっくり見て触り、壁や床、装飾のガラスブロック、階段、手すりなどそれぞれの材質や役割に合わせて素材の生かし方を決めたと聞けば、それほど突飛なことではない。

色は白に統一しつつ、最終的に採用した素材は6種類。既存の内装を “覆う”ためにグラスファイバーやガーゼと石膏や樹脂系塗料によって独自のマテリアルも開発した。壁面や天井、什器のマテリアルを加工後アップサイクルするケースや、既存を下地として利用して新しい仕上げを施す試みもある。金属などの素材はメッキを剥がし、変質させ、表情豊かな素材として再生し、新たな照明や什器として再構築した。

田中代表からの条件はひとつ、「繊細な服地が床や壁にひっかからないこと」だ。「便利にしすぎると緊張感がなくなるからメリハリは大事。アーティストの皆が勢いがある分、最後まで完成がイメージできなくてヒヤヒヤで、打ち合わせは常に現場だった。最終的に変更してもらったのは階段の材質だけ。私はハイヒールをはくから、ヒールの音がカンカン鳴る材質は避けてもらった」と言う。

廃棄方法もこだわった。工事期間中に排出される廃材のリサイクル率を高く保つため、現場内で排出されたごみを廃プラスチック、石膏ボード、木くず、金属くず、段ボール、混合廃棄物の6 品目に分別。中間処理工場で混合廃棄物の選別作業と、破砕・圧縮といった処理を実施し、廃棄物を減容し運搬効率を上げてリサイクル先へ出荷した。

“とは言え”で止まる、商業施設と環境問題の矛盾

解体は「どこで止めるか」が難しい。天井をよく見ると、ひっかき傷のようなものがところどこにある。これは包帯の留め具やギブスをイメージしてあえて残したものだ。「再利用することを、ギブスのような治具で治療するイメージと重ねた。解体のプロセスが同時に完成につながっていて、それが同時に現状の課題の改善に向かうという状態をデザインしている」と小野寺は言う。

建築・内装における環境配慮はその大部分がリサイクル素材の採用など、資材の“置き換え”にとどまり、根本的な取り組みに至っているケースはまだ少ない。小野寺の元に最近は、環境へ配慮した建築設計の依頼が多く入るというが、根本的な発想の転換を提案しても、最終的には“とは言え”で思考停止。表面的な採用に終わることの方が多いという。

プレゼン資料にあった小野寺の言葉が印象的だ。「ファッション業界だけでなく商業界全体が環境負荷などの課題を認識しながらも、今だに新店舗を構える際には大量の廃棄と新素材を使用して煌びやかな世界観を作り込むことが主流になっている。これまでファッションの世界を切り開いてきたアヴァンギャルドなファッションデザイナーたちのように、この新しい『イザ トウキョウ』が次なる商業世界への姿勢を示す一端を担うことを願っている」。

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