インスピレーションとなったのは、英国スコットランドの丘陵や渓谷。ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)は、ウエストミンスター公爵との交際を通してツイードに触れ、再解釈して自身のコレクションに加えた。ツイードは「シャネル」のスタイルを語るに欠かせないアイコン。スコットランド国境地帯を流れるツイード川が由来のこの素材は厳しい気候から身を守る柔らかい“甲冑”のような存在で、スコットランドの人々によりさまざまな柄で織られてきた。シャネル自身、ツイードのリッチなテクスチャーやその表現のバリエーションの豊かさ、素材としての味わい深さに魅了されたに違いない。
ツイードの本質に迫るハイジュエリー
20年に登場したハイジュエリーで、ツイードのしなやかさや風合いをジュエリーで表現した「シャネル」ファイン ジュエリーのパトリス・ルゲロー=クリエイション スタジオ ディレクター。「ツイードの表現をより深く追求したい」と今年の新作のテーマに選んだ彼もシャネルと同様に、ツイードに魅了された一人だ。今年新たに登場した63点のハイジュエリーを通して、再びツイードの魅力を紐解いた。単色または多色使いで生地の織を再現し、刺しゅうやフリンジ、オープンワークを施してツイードの本質を表現している。
宝石の美しさを引き出すためにセッティングを再設計し、クリエイションの構造そのものでツイードのしなやかさを表現。ゴールドやパール、宝石を織り重なる糸のようにつなぎあわせたり、透かし細工を施したりしてツイードのふんわりとした風合いを出すなど、緻密な職人技を駆使している。フリンジをあしらった軽やかなジュエリーは、宝石でつくったファブリックのようだ。
メゾンのアイコンへの愛とイマジネーション、そしてサヴォアフェール、職人技が融合された自由なクリエイションが実現した。
5つのアイコン、そしてカラー
“ツイード ドゥ シャネル”は5つのテーマとカラーでツイードを探求してジュエリーへ昇華している。ホワイトのリボン、ピンクのカメリア、ブルーの背景に煌めくコメット、イエローの太陽、レッドの閃光が輝くライオンだ。どれもシャネルが愛した5つのアイコン。これらは、ネックレスやブレスレット、リング、イヤリングなどの主役としてモチーフにあしらわれたり、クラスプの中で繊細に表現されたりしている。
“リボン”は留め具や装飾として取り入れられる、「シャネル」のオートクチュールに欠かせない存在。“ツィード ドゥ シャネル”でも、ツイードに織り交ぜられながら素材に柔らかさや遊びを加える存在として登場している。ツイード上の刺しゅうのようにピンクのサファイアを散りばめて描かれているのが“カメリア”のモチーフだ。“コメット”は、ラピスラズリやオニキスの夜空にイエローダイヤモンドやサファイヤの星が輝くイメージ。獅子座であったシャネルにとって“太陽”と“ライオン”も重要なモチーフだ。イエローゴールドのツイードにダイヤモンドとベリルで光のゆらめきを描いて“太陽”を表現したり、ルビーやスピネル、スペサルタイトガーネットで彩ったツイードに“ライオン”のモチーフを飾ったり、モチーフとカラーでツイードの表情に奥行きを与えている。