ファッション

神が降りた「リック・オウエンス」と「ジバンシィ」、「ヨウジ」で謎の現象起こる 2024年春夏メンズコレ取材24時Vol.6

2024年春夏コレクションサーキットが、各都市のメンズ・ファッション・ウイークから本格的に開幕しました。「WWDJAPAN」は今回も現地で連日ほぼ丸一日取材をするノンストップのコレクションリポートを敢行。担当は、メンズ担当の大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの大阪出身コンビ。時には厳しい愛のツッコミを入れながら、現場のリアルな空気感をお届けします。

11:30 「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」

今日はややゆっくり目で、「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE)」からのスタートです。会場は、パリ装飾芸術美術館。今シーズンは原点回帰し、製品プリーツという技法を見つめ直して、本質までそぎ落とすコレクションを披露しました。ショーが始まると、スタッフが大きく巻いた一本のプリーツ紙をランウエイの上にゆっくり広げ、さらに数人のスタッフがそれらを裁断して服を取り出し、モデルに着せます。まるでプリーツ技法が誕生した瞬間を見ているような気分になり、今でこそ街に浸透しているプリーツ服のアイデアや高い技術のすごさを改めて感じました。

アイテム構成も非常にシンプルで、カラーは自然を意識した柔らかいトーンが中心です。自然からのインスピレーションは、プリントでも表現します。山や風、大地の景色を三角や丸などに重ね、強いタッチで服を彩ります。図形をプリントした長方形に基づく“レクタングル”シリーズでは、着用すると左右非対称のシルエットになり、その歪みが美しいドレープを生み出します。新しい提案は、“ホライゾン プリーツ”です。プリーツを水平に入れることで、着用すると服が垂直に弾み、まるで生命が宿ったかのうように軽やかに躍動します。シーズンごとに丁寧に重ねてきた技法に新しいアイデアや今のエッセンスを少しずつ加えながら、ゆっくりと着実に進化してきた「オム プリッセ」のクリエイションを朝から十分堪能しました。

12:30 「リック・オウエンス」

パリは午前中から土砂降りの雨に見舞われ、パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)の屋外を会場にした「リック・オウエンス(RICK OWENS)」のショーではびしょ濡れ覚悟でした。しかし、リック様には天気をも左右する力もあるのか、ショー前には図ったかのように降り止んだので、心配無用だったようです。

今季のコレクションは黒一色。要となるのはコルセットを備えたハイウエストのパンツで、シアーな素材のトップスやドレープを利かせた彫刻的なノースリーブトップス、肩先がとがったスクエアショルダーのショート丈ジャケット、歩行器具に似たブーツで新しいプロポーションを生み出しました。ハードとソフト、タイトとルーズ、相反する要素が反復したルックは、時に背筋を凍らせるほど厳格。中央にそびえ立つ装置からは10秒ごとに爆竹が鳴り、会場周辺にネオン色の煙が立ち込めて、199X年のように異様な景色が広がります。余計な色や装飾は用いず、シルエットとプロポーションで見せた彫刻的なエレガンスに見惚れました。エレガンスに焦点を当てた昨今の「リック・オウエンス」のクリエイションは、リアルクローズにも重心を傾けながら、ますます研ぎ澄まされています。

13:00 「オン」

ショーの合間のタイミングを見計らって、スイス発のパフォーマンスブランド「オン(ON)」が何やら面白いイベントを開くとのことで現場に急行しました。その内容とは、韓国発の「ポスト アーカイブ ファクション(POST ARCHIVE FACTION)」とのコラボレーションアイテムの展示でした。

同ブランドは2018年に設立し、最近では日本の大手セレクトや百貨店も注目するほど知名度を広げています。ランニング界では急先鋒の「オン」も最近はファッションアイテムとして取り入れる人が多く、「ロエベ(LOEWE)」とのコラボレーションも記憶に新しいところ。今回の協業により、シューズに加え、アパレルの認知をさらに高めてトータルブランドへと成長する狙いがあるのでしょう。実物を見ると、とてもかっこいい仕上がりでした。シューズは、「オン」の“クラウドモンスター”をタウン仕様にアレンジしたもので、厚めのソールとシックな配色が素敵。アパレルも、色のトーンや控えめながら主張する穴あきディテールで、タウンユースにもよさげ。出張3週間目で全く日課のランニングができていないため、こういうアイテムを見ていると走りたくてうずうずします。発売は来春と少し先ですが、楽しみに待ちたいです。

14:30 「ジバンシィ」

ジバンシィ(GIVENCHY)」は軍事博物館を会場にショーを行いました。私たちが会場に到着すると同時に、ハイヤーからセレブが到着。観衆から大歓声が上がり、思わずカメラを構えました。車の扉が開くと同時に突然目の前の人混みも開けて、運命の人の登場シーンかのように現れたのは、またしてもジャレッド・レト(Jared Leto)。「ルイ ヴィトン(LOUIS VUITTON)」でも劇的な出会いから美しい写真を撮れたので、運命を感じてこちらでもシャッターを押しました。セレブのパパラッチは、人だかりで上手く撮れないことが多いのですが、人の気配が少なくなった瞬間に現れるジャレッドは、見た目もタイミングも神のようです。30度超えの夏日にフォーファーのコートを羽織るプロ根性もさすがジャレッド。パパラッチするこちらに「ハァ〜〜イ」と声を掛けてくれる気さくさもさすがジャレッド。こうなれば全ジャレッド・レトを撮影したい。

話が逸れましたが、肝心のコレクションは、得意のテーラリングにスポーツウエアとスクールユニホーム、ミリタリーウエアを織り交ぜた、若い世代の制服の着用方法からヒントを得た内容。昨シーズンまで主軸に置いていたストリートウエアの要素はシルエットやプロポーションにこそ見られるものの、やや方向転換を試みたようです。また、メゾンのアトリエ技術を存分に発揮した仕立てと生地も、注目すべきポイント。詳しくは別記事のリポートをご覧ください。

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16:00 「アミリ」

ロサンゼルス発の「アミリ(AMIRI)」は、パリ・メンズで3回目のショーを行いました。植物園を見渡せる特設会場にバーカウンターやテーブルとイスを飾り、リゾート地のカフェのテラスを模したセット。そんな雰囲気にマッチするのが、ブランドの代名詞であるストリートウエアにリゾート地の開放感をミックスさせたコレクション。近くのゲストから「遠っ」と漏れるほど遠くから現れたモデルが、砂利道のランウエイを涼しげに歩いて迫ってきます。

淡いイエローからアッシュ系のピンク、マリングリーンへと流れるように色が変化していき、1950年代の仕立てと90年代のフリースピリットをまとったリラックスウエアが、雨上がりで湿気の高いパリに清涼感をもたらしました。レザーを編み込んだポロシャツに繊細なレース、クリスタルの装飾まで、高品質な素材と装飾を目を凝らして見ているとあっという間にショーが閉 幕。クチュールとも言えるこれらのアイテムをどこまで商品化するのかは不明ですが、高級で快適なストリートウエアを好む彼のコミュニティーを満足させるには十分な内容だったと思います。

同ブランドは、4月1日付で「バーバリー(BURBERRY)」前シニア・バイス・プレジデントのエイドリアン・ワード・リース(Adrian Ward-Rees)を最高経営責任者(CEO)に任命し、新体制を取りました。昨年、日本初の旗艦店を東京・南青山にオープンしたのを皮切りに、パリやロンドンでもロケーションを探しているとのこと。創設10周年を迎える来年は、いいニュースをたくさん届けてくれそうです。

17:30 「ヨウジヤマモト」

前シーズンはバズりにバズった「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」も、今シーズンは平常運転。とはいえ、認知度がさらに広がった中での注目のショーであることは間違いありません。コレクションは、明暗のコントラストを効かせたカラーリングと素材使いに、誇張したディテールでアクセントを加えたスタイルが印象的でした。さまざまなプリントは16世紀の絵画に着想したもので、厳格なスーツや流線型のシャツなどのアイテムを彩っていました。中でも、デザイナー本人の顔面プリントはど迫力。全体では黒の比重がやはり多いのですが、時折差し込む赤や青、白がショーにリズム感を加えます。得意のメッセージシリーズは“過呼吸です”“一枚のタオルを幸せに二人で”と今季も絶好調。使い古したような加工のハットやバギーパンツ、フリルのディテール、安全ピンあたりがキーアイテムとして、漆黒のダーク・ボヘミアンにエッジを加えました。

気になったことが一つ。同ブランドのショーを何度か見ているのですが、特定のルックに対して客席から拍手が起こったのは初めての経験でした。見ている限り、モデルに対してではなさそうで、宗教っぽいプリントが登場すると拍手が起こっていたような……。気になるので、今度聞いてみようと思います。

19:00 「ドリス ヴァン ノッテン」

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のショー会場は、廃墟となった建物。ショー後のバックステージでドリス・ヴァン・ノッテンは、「エレガンスを研究したいと考えていた」といいます。「男性的とは何を意味するのか。現代におけるマスキュリニティーとは何かを自問した。若者が興味を引かれるような、若々しいエレガンスとは何だろう?ストリートウエアは素晴らしいけれど、人々は自分らしさを表現し、楽しむために、より多くの着こなし方を望んでいるとも思う」と続けました。

オーケストラから甘く激しいビートを刻む音楽を背景に、細長いシルエットになめらかな生地のウエアで、優雅な雰囲気を放つ男性像を描きます。グラフィカルなモチーフはいつもより控えめに、仕立てとシルエット、シェイプ、動きに焦点を合わせます。窓から時折吹き込む風が服をなびかせたのは、計算通りなのでしょうか。ラグランのアウターや丈が長くややオーバサイズのダブルブレストのジャケット、ショーツとジョガーパンツでストリートとアスレチックウエアの要素を取り込み、伝統的なスーツにはカジュアルなサンダルを合わせます。

モチーフが少ない分、アースカラーを軸にパープルとマスタードイエロー、ブロンズのカラーブロックが際立っていました。本質を探究した還元主義的なアプローチによる、控えめでエフォートレスなエレガンス。もう若者のカテゴリーには入らない私も、とても興味引かれるコレクションでした。

20:30 「アミ パリス」

本日ラストは、フワフワのカーペットを備えた無機質な空間をショー会場にした「アミ パリス(AMI PARIS)」です。デザイナーのアレクサンドル・マテュッシ(Alexandre Mattiussi)は、「昨シーズンの続編で、本質に立ち返り、必要最低限のワードローブを披露したかった」とショーの後に教えてくれました。

これまでは華やかな会場選びを続けていたものの、シルエットや素材に焦点を当てるために、今回はシンプルな会場を選んだといいます。リラックスシルエットのコートにジャケット、ボトムスはショーツ、ハーフ、ワイドと幅広いバリエーションのスラックスをそろえ、ウィメンズでは深いスリットが入ったスカートとドレスでオフィスからイヴニングまで適応するウエアを発表します。モチーフはなく、装飾はスパンコールとシューズのヒールのストライプ柄のみ。「男性にはウィメンズを、女性ににはメンズを着用させたルックもあり、フィナーレでは“全てがひとつ”というメッセージを込めて、並ばせず一気にモデルをランウエイに送り込んだんだ」とアレクサンドルは説明しました。

日本人の肌にも似合いやすそうなダスティーな色彩にうっとりしつつも、コレクションは極めて無難です。研ぎ澄まされたミニマリズムでもあると同時に、素材の質感を感じられらない画像だけで見ると退屈と言われるかもしれません。しかし、ショー後のバックステージの光景は無難ではなく、ファーストルックを飾ったフランス人俳優のヴァンサン・カッセル(Vincent Cassel)がスタッフと楽しく談笑しているではありませんか。ハリウッド映画にも出演する大物俳優で、日本でいうところの渡辺謙さん的な立ち位置でしょうか。華やかなオーラを放ちつつも、アレクサンドルと一緒に記念撮影にも優しく応じてくれて、取材のために最後まで残っていた甲斐がありました。ショー会場にはほかにも、映画「リトル・マーメイド」で主演したハリー・ベイリー(Halle Bailey)や、ブランドのアンバサダーを務める俳優のチェ・ウシク(Choi Woo-shik)も来場。セレブからインフルエンサー、一般ゲストまで、「アミ パリス」の服は誰でも親しみく似合うというのを再認識しました。

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2025年春夏ウィメンズリアルトレンド特集 もっと軽やかに、華やかに【WWDJAPAN BEAUTY付録:2024年下半期ベストコスメ発表】

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