ビューティ企業にとって、魅力的な新製品や革新的な新成分は競争力の源泉だ。これらは研究員の努力の結晶と言えるもの。本連載では、普段表舞台に出てくることが少ない彼・彼女たちの研究内容や成果、仕事の面白みを聞く。第1回は花王の研究開発部門 生物科学研究所の村瀬大樹グループリーダー。同社は、細胞内の物質を分解してリサイクルする「オートファジー(自食作用)」の人の肌への影響について研究を続けている。村瀬グループリーダーはその第一人者だ。(この記事は「WWDJAPAN」2023年6月26日号からの抜粋で、無料会員登録で最後まで読めます。会員でない方は下の「0円」のボタンを押してください)
村瀬大樹(むらせ・だいき)/花王 研究開発部門 生物科学研究所 グループリーダー 博士(農学) プロフィール
名古屋大学農学部、同大学院生命農学研究科 博士課程(前期)修了。2002年花王入社。11年~16年Kao USA Inc.(オハイオ州シンシナティ)に駐在し、グローバルな肌の多様性を研究。17年から現職。18年博士(農学)取得。「肌悩みに寄り添い、解決する」を掲げ皮膚科学研究に取り組む
WWD:オートファジーとは?
村瀬大樹・花王生物科学研究所グループリーダー:簡単に言うと、細胞の新陳代謝の仕組みのこと。細胞は、不要なタンパク質や細胞小器官を自ら分解し、それを原料に新たなタンパク質を合成していることが分かっている。オートファジーは体のあらゆる部位で作用し、細胞を常に新しい状態に保つ。たとえば認知症は脳に、腎不全は腎臓に細胞の老廃物が蓄積することが要因になるが、オートファジーの活性化がこれらの処方箋になることが期待されている。オートファジーに関する研究論文は急激に増えており、世界中で注目されている領域だ。
WWD:「エスト」「センサイ」といったプレステージブランドでは、すでに肌のオートファジー活性にアプローチする商品を発表している。どのような研究成果があったのか。
村瀬:世界的なオートファジー研究者である大阪大学の吉森保教授のご指導の下、2010年に研究を始めた。その成果として13年にオートファジーが皮膚の「メラニン」を分解し、皮膚色に関与することを、19年には加齢や紫外線によりオートファジー活性が低下すると、シミや肌の質感などの多様な皮膚状態にも影響することを発見した。
WWD:普段の仕事内容は?
村瀬:昔は研究員よろしく試験管とにらめっこだったが、最近は研究所の外で仕事をする機会が増えた。研究内容を商品に応用する事例も増え、美容部員に肌の健やかさの理由や、化粧品成分が働く仕組みを説明することもある。企業や学会でも出張講演している。家に帰ると、自分の子どもたちには、「研究員なのに研究室にいないの?」と不思議がられている(笑)。
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