ファッション

「リトゥン」山縣良和の山梨県立美術館ミレー展を訪問 “農民画家”と山縣に共通点?

山梨県立美術館は8月27日まで、開館45周年記念として「ミレーと4人の現代作家たち」と題した展示を行っています。われわれと同時代を生きる現代作家を通し、ミレーを多様に解釈するという企画で、現代作家の一人としてファッションブランド「リトゥンアフターワーズ(WRITTENAFTERWARDS以下、リトゥン)」の山縣良和さんも参加。山縣さんは、「リトゥン」と並行してファッションの私塾「ここのがっこう」を主宰するなど、デザイナーの枠には収まらないユニークな活動をしており、これまでにもいくつかの美術展に参加しています。今回は何を見せてくれるのか、山梨を訪ねました。

前提として、山梨県立美術館にとって、農民や自然を描き続けた画家のミレーは特別な存在です。45年前の開館時、自然豊かな県を象徴するコレクションとして、ミレーの代表作「種をまく人」を収蔵。以来収集を続けており、現在40作品ほどをコレクションしているんだとか。確かに山梨は富士山や八ヶ岳、南アルプスといった山々に抱かれた土地であり、フルーツを中心に農業も盛ん。山梨とミレーには親和性を感じます。

同時に、ミレー展に山縣さんが参加していると聞いた時から、両者にもなんとなく親和性を感じていました。農民に限った話ではないですが、山縣さんもその土地の人々の暮らしをクリエーションにつなげる作家です。ファッションは“カッコつけ”の要素も大切ですが、山縣さんが作るモノは結果的にカッコよくなることは時々あっても、基本姿勢は借り物のカッコよさより自分の中から絞り出されるオリジナリティー重視。そうなると必然的に、自身のルーツを含めその土地の市井の人々の暮らしや文化に目を向けることになるんだと思います(蛇足ですが、山縣さんの作るビジュアルに“かわいい妖怪”みたいなものが多いのは、山縣さんが水木しげるの故郷、鳥取の出身で、妖怪を含む八百万の神みたいな考え方がオリジナリティーとしてあるからなんだろうと私は解釈しています)。

前置きが長くなりました。展示は参加する作家ごとに部屋が別になっています。第1室が山縣さんの部屋。もちろんミレーの作品がそこここに飾ってありますが、会場いっぱいに置かれているのは、日本の古道具やかわいい妖怪のようなマネキン(そう、ここでもかわいい妖怪が多数登場します)、大型の織機など。民俗資料館の展示の中にミレーが混じっている、という表現がイメージ的には近いのかもしれません。「ここのがっこう」生徒の作品も混じっています。

「土地の記憶や人々の生活をパッチワーク」

「パンデミック以降、東京一極集中ではなく、ほかのローカリティーも模索するようになった。それで近年は、山梨の絹織物産地である富士吉田や、長崎・五島列島の小値賀島などに拠点を置いて、『リトゥン』や『ここのがっこう』の活動を行っている」と山縣さん。ミレー展の依頼を受けて調べてみると、「ミレーもコレラのパンデミックをきっかけにパリを離れ、郊外の村に移り住んでいた」。それ以外にも何度か引越しや移動を繰り返したミレーに重ねて、展示のコンセプトとして掲げたのは「フィールドパッチワーク つくりはかたり、かたりはつくり」。富士吉田や小値賀島の「土地に刻まれた記憶や人々の生活にいきづいてきたもの、それをインスピレーションとして制作した作品」を引っ越しするかのように会場に持ち込んで、インスタレーションとしました。

大型の織機は、実際に「リトゥン」の生地を織っている富士吉田の機屋から持ち込んだもの。会期中、ここで実際に生地も織っていくといいます。「美術品が変わることのないように保管し続ける場所が美術館。それゆえ、美術館は美術の墓場と言う人もいる。美術館を、生きている人や生きているものと密接に関わり、変化し、そこから新しい何かが生まれる場所にする」と担当の学芸員さんは意図を説明します。美術館内で機織り……で思い出すのは、2011年に東京オペラシティでやっていた「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」展です。あれに参加していた時も、山縣さんは館内で動物たちが織機を使い紙幣を織っている(紙じゃなく布のお金だったので布幣?)展示をしていました。あれから12年。山縣さんの世界観、清々しいほどブレません。

「フィールドパッチワーク」は今回の展示に限ったコンセプトではなく、近年の山縣さんの活動全体を形容するものです。「土地をパッチワークするように組み合わせていくことで何かが生まれるかもしれない。例えば、小値賀島でもかつては養蚕が行われていたが、今は途絶えている。(絹織物産地の富士吉田ともつながりのある自身が触媒となる形で)養蚕をまたやってみようかという動きが島で出ている」と山縣さん。日本は戦争や地震などによって古いものを捨てて、その上に西洋風の新しいものを築いてきた国ですが、「(古いものを後世に)残し、つなぐにはどうしたらいいかを常に考えている」。ファッションという切り口から日本の文化を残そうとする試みですが、それにより「日本においてファッションを文化にしていく」ことが山縣さんの目指すものです。

「種をまく人」と「泥絵」の対比

山縣さんの話に終始してしまいましたが、ほかの3人の作家さん(淺井裕介さん、丸山純子さん、志村信裕さん)の展示もそれぞれの解釈があって非常に面白い。第2室は、各地で採取した土と水で描く「泥絵」で知られる淺井さんです。「まるで土で描いたかのよう」と同時代に評されたというミレーの「種をまく人」と、実際に山梨の土で描いた作品との対比。泥絵はエネルギッシュであると同時に繊細で、純粋に見ていて楽しく、パワーをもらう作品でした。

以上、駆け足になってしまいましたが、夏休みのお出かけ先候補に、山梨県立美術館のミレー展、いかがでしょうか。ミレー展の中ではないですが、大菩薩嶺や昇仙峡といった山梨の山や自然の風景を、地元出身の日本画家が描いた水墨画絵巻や屏風なども一般展示室には飾ってありました。美術には疎いけど山は好き、というアウトドア派にとっても面白さのある美術館ですよ。

■「ミレーと4人の現代作家たち -種にはじまる世界のかたち-」
開催日時:7月1日〜8月27日(毎週月曜日、7月18日は休館、7月17日、8月14日は開館)
開館時間:9〜17時
開催場所:山梨県立美術館
住所:山梨県甲府市貢川1-4-27

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