7月3日から6日まで、2023-24年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークがパリで開催された。パリ郊外や市内のレアールなどで起きていた暴動の影響を受けて、開幕前夜に予定されていた「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」のショーに加え、期間中もいくつかのイベントが中止されたが、大きな混乱はなく4日間の会期は終了。問題が絶えず不安も多い時代の中で、贅を尽くしたファッションを通して、この上ない美や夢を見せてくれたキーブランドのショーをリポートする。
「ディオール(DIOR)」は、おなじみのロダン美術館の中庭に建てた箱型のスペースを会場に、2023-24年秋冬オートクチュール・コレクションを発表した。会場内の壁面に飾られたのは、イタリア人アーティストのマルタ・ロベルティ(Marta Roberti)が今回のために描いた神話の女神や動物たちの絵を忠実に再現した刺しゅう作品。彼女は、「絵画史において女神たちがどのように描かれてきたかを研究した」とし、「常にと言っていいほど、女神と動物は結びついている。最初は女神たちのポーズや動きを自分の体で模倣し、その特徴を具現化し、自分自身の女神像を完成させた」と説明する。そんなロベルティの言葉やアプローチにインスピレーションを得たマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=クリエイティブ・ディレクターは、強さと儚さを併せ持つ現代の女神のようなスタイルを描いた。
オールホワイトのルック群からスタートしたコレクションの軸になったのは、サルトリア技術とハイウエストからセミフレアに広がるロングシルエット。ウールクレープで仕立てたダブルフェースのケープにロングドレスを合わせたファーストルックのように、ミニマルなケープやオペラコート、アイコニックな“バー”ジャケットにとフロアレングスのドレスやスカートを合わせたスタイルは、ピュアで神秘的なムードを漂わせる。また、アームホールの広いケープライクなチュニックやジャケットには、腰上にタックを取ることでペプラムをプラス。メゾンにとって大切なデザイン要素の一つであるプリーツも、柔らかなドレスやスカートからシャツ、ジャケットの袖にまで施している。足元に合わせるのは、グラディエーターのようなフラットサンダル。それは、着想源となった古代ギリシャや古代ローマのイメージにつながる。
終盤に向かうにつれて、コレクションは輝きを増し、パールとメタリックカラーの糸やパーツでアンティークライクな柄やモチーフを描いた細やかな手仕事が光る。しかし、それはレッドカーペットやパーティーで華やかさを競い合うためのものではなく、さりげなく気品を感じさせるもの。圧倒的な技術に裏付けられた贅沢な装飾を軽やかに取り入れているのが印象的だ。
マリア・グラツィアは、この数年のクチュールにおいて、アトリエの力を生かしながらも落ち着いた色使いとクリーンなシルエットで、着る人に寄り添い、その美しさを引き立てる服作りを追求している。そこに観るものをアッと驚かせるような要素はあまりなく、控えめとも言えるかもしれない。ただ、今季もその安定感のある優美なコレクションが、多くの顧客の期待に応えたことは間違いないだろう。