7月3日から6日まで、2023-24年秋冬オートクチュール・ファッション・ウイークがパリで開催された。パリ郊外や市内のレアールなどで起きていた暴動の影響を受けて、開幕前夜に予定されていた「セリーヌ オム（CELINE HOMME）」のショーに加え、期間中もいくつかのイベントが中止されたが、大きな混乱はなく4日間の会期は終了。問題が絶えず不安も多い時代の中で、贅を尽くしたファッションを通して、この上ない美や夢を見せてくれたキーブランドのショーをリポートする。
「フェンディ（FENDI)」のショー会場は、今季もパレ・ブロンニャール（旧証券取引所）。四角い空間の床には、異なる色の大理石を組み合わせた直線的なランウエイが作られている。そして、英国人作曲家ヘンリー・パーセル（Henry Purcell）による17世紀のバロック音楽の原曲を基にしたクラウス・ノミ（Klaus Nomi）の代表曲「コールド・ソング（The Cold Song）」のしっとりとした音色と共にショーは幕を開けた。
同ブランドのオートクチュールやウィメンズウエアを監修するキム・ジョーンズ（Kim Jones）＝アーティスティック・ディレクターがクチュールで探求し続けているのは、人間味があって親しみやすいもの、そして着やすいものを生み出すこと。“コスチューム”のようなデザインではなく、実際にクチュールにまとう女性たちに重きを置いている。「今シーズンはクチュール技法ならではの滑らかさ、流動性、そしてフォームに集中し、これらの要素を現代のアティチュードと結びつけたいと考えた」という彼が出発点にしたのは、シルヴィア・フェンディ（Silvia Fendi）の娘であり、同ブランドのジュエリー・アーティスティックディレクターを務めるデルフィナ・デレトレズ・フェンディ（Delfina Delettrez Fendi）がデザインした初のハイジュエリー・コレクション“フェンディ・トリプティク（FENDI TRYPTYCH）”。ジュエリーと身体の関係性に着目し、スキントーンのような落ち着いたカラーにグリーンサファイアやルビーなど宝石のような色彩を交え、シンプルなデザインを核としたワントーンルックを打ち出した。
序盤に登場した肉厚のサテンで作る彫刻のように美しいドレープやリキッドジャージーの流れるようなシルエットが際立つ優雅なドレスは、巧みな布づかいを象徴するもの。中には、一つの縫い目だけで仕上げられたものもある。そして、すっきりとしたシルエットのドレスにはウエストに帯のようなニットのコルセットをプラス。モデルは皆、リングが付いた小さなジュエリーボックスのようなミノディエール（クラッチバッグ）を胸に携えて歩き、その姿にはエフォートレスでありながらエレガントなムードが漂う。
多くのルックは首元や耳、指先にきらめくダイヤモンドやカラーストーンを引き立てるもの。しかし、キムはそれに留まらず、メタルチェーンを用いた複雑な刺しゅうやドレスと同色のスパンコール刺しゅうによるきらめきなどでジュエリーとの関連性を服の上でも表現し、アトリエの技巧を存分に生かしている。それはもちろん、細かくジグザグを描くシアリングやリサイクルファーのタフティングなど、「フェンディ」を象徴するファーの（もしくはファーのような）デザインにも見て取れる。
ラストに登場したのは、ショールを羽織るかのようにオフショルダーで着こなすジャケットとラップスカートのセットアップ。無数のビジューで埋め尽くされたこのルックは1200時間をかけて生み出されたもので、胸元を飾るホワイトダイヤモンドとピンクスピネリが輝くジュエリーに負けない眩さでショーを締めくくった。
